【要望書】「こども家庭庁」発足にあたって、実効ある医療施策等の実現を求める

全国保険医団体連合会では、2023年4月より設立される子ども家庭庁に向け、下記の要望書を総理、子ども担当大臣、およびマスコミ各社に送付しました。[PDF:337KB]

2023年2月14日
全国保険医団体連合会
会長 住江 憲勇

「こども家庭庁」発足にあたって、実効ある医療施策等の実現を求める要望書

 

2023年4月より、「こども及びこどものある家庭の福祉の増進及び保健の向上その他のこどもの健やかな成長及びこどものある家庭における子育てに対する支援並びにこどもの権利利益の擁護に関する事務を行うとともに、当該任務に関連する特定の内閣の重要政策に関する内閣の事務を助けること」を任務とする「こども家庭庁」が内閣府の外局として設置されることとなりました。

2022年の合計特殊出生率は1.3を下回る見込みで、こどもをめぐる問題・課題は山積しております。当会は、「こども家庭庁」の設置にあたって、下記の事項を実現するよう、求めます。

一、こども家庭庁の任務遂行にあたっては、1994年に日本も批准した「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」及び「国連子どもの権利委員会」の日本への総括所見(勧告)の完全実施を目指すこと。
【理由】  児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」は、18歳未満の児童(子ども)を権利をもつ主体と位置づけ、おとなと同様ひとりの人間としての人権を認めるとともに、成長の過程で特別な保護や配慮が必要な子どもならではの権利も定めています。また、「国連子どもの権利委員会」の総括所見(2019年3月)は、日本における様々な課題として、差別の禁止や子どもの意見の尊重、教育への権利など、その改善・具体的措置を勧告した上で、2024年11月21日までに提出する統合定期報告書において所見のフォローアップに関する情勢を記載するよう強く求められています。
二、医療については、下記の取り組みが重要であり、これらの実施を関係省庁とともに実現すること。
(1) 国による18歳までの子どもの医療費窓口負担無料制度の実現を図ること。
① 18歳年度末までを対象とする国の医療費窓口負担無料制度(入院時の食事負担を含む)を早期に創設すること。
② 子ども医療費助成を現物給付した自治体への国民健康保険(国保)国庫負担の減額措置(ペナルティ)を完全に廃止すること。
【理由】  子どもの健やかな成長のためには、病気の早期発見・早期治療を支える環境が非常に大切です。どこに生まれ、どこに住んでも、全ての子どもに必要な医療が保障されるべきです。全国知事会も国による制度の創設を要望しています。安心して子どもを産み、育てることのできる社会への第一歩とするために、18歳年度末までを対象とした国の医療費無料制度を早期に創設する必要があります。また、子ども医療費助成を現物給付した自治体の国保国庫負担に対するペナルティは即刻中止すべきです。

 

(2) 国の責任で全ての年齢を対象とした軽度・中等度難聴(児)者に対する補聴器購入費補助制度をつくること。
【理由】  聴力に障害があり、障害者総合支援法の身体障害者障害程度等級2級~6級に該当する場合は、補聴器が「補装具費支給制度」の対象とされますが、軽度・中等度難聴(児)者については、「補装具費支給制度」の対象となっておりません。18歳未満の軽度・中等度難聴児に対する補聴器購入費等助成制度は、全ての都道府県で創設されていますが、自治体によって制度の内容が大きく異なっています。子どもにとって、聞こえは発達・学業にも大きな影響があります。国として全ての年齢を対象とした軽度・中等度難聴(児)者に対する補聴器購入費補助制度をつくってください。なお、補聴器の購入費及び修理・維持費の対象に下記を追加してください。
① 対象者に非難聴側が正常の片側難聴、高音急墜型、聴覚情報処理障害(児)者を加えること。
② イヤーモールド、両耳補聴器、無線式補聴援助装置、外耳形態異常に対する軟骨電動補聴器を購入費の補助対象とすること。

 

(3) 病気による難聴の予防のため、おたふくかぜワクチンの定期接種化や、第5期接種の周知徹底、MRワクチンの接種率向上を図ってください。
【理由】  日本耳鼻咽喉科学会が2015-2016年に5,565医療機関に実施した調査では2年間に348人がムンプス難聴と診断されています。先進国でおたふくかぜワクチンが定期接種化されていない国は日本だけであり、任意接種であることからワクチン接種率は30-40%程度しかありません。また、2021年度の麻しん風しん予防接種の実施状況によると、第1期MRワクチン実施率の全国平均は93.5%であり、MRワクチンの2回接種を開始した2006年以降で最低となってしまいました。インバウンドが増えて来る事から風しん対策と共に麻疹対策も重要です

 

(4) HPVワクチン接種率の更なる向上を図ること。15歳未満については2回接種に切り替えること。HPVワクチン定期接種の対象に男子も加えること。また、交際や性行為における同意、性感染症、避妊、デートDVなど、人権を含めた性教育をしっかりと行うこと。
【理由】  昨年4月からHPVワクチン接種の積極的勧奨が再開されましたが、接種率の向上が必要です。また、WHOでは15歳未満への2回接種を推奨しており、日本でも2回接種に切り替えるべきです。また、子宮頸がんを防ぐためには男子についても定期接種とすべきです

 

(5) ワクチン接種後の健康被害に対する迅速な補償及び調査・研究の拡充を図ること。ワクチンが接種されなかったことによる感染症流行、母子感染についても調査・研究を行うこと。
【理由】  予防接種の副反応による健康被害は、稀ではあるものの不可避的に生ずるものです。しかし、健康被害が生じた方や家族にとっては大変な問題です。ワクチンとの因果関係が否定できない事例を含めて迅速に補償を行うとともに、健康被害の調査・研究を充実することが必要です
三、学校健診後の治療調査を国として実施し、原因の究明と対策を行うこと。未受診を「自己責任」とせず、受診しやすい環境を整えること。
【理由】  全国保険医団体連合会で実施した2020年度学校健診後治療調査(31都道府県の公立、私立の小学校・中学校・高等学校・特別支援学校4,923校の回答)では、学校健診で「要受診」となったにもかかわらず未受診となっている子どもが「歯科健診(62.3%)」、「眼科健診(55.4%)」、「視力検査(58.3%)」、「耳鼻科健診(57.4%)」、「聴力検査(41.2%)」、「内科健診(53.6%)」であることが判明しています。小学生でも、歯科49.2%、眼科45.0%、視力44.0%、耳鼻科47.4%、聴力32.3%、内科49.1%が未受診です。口腔崩壊の子どもがいた学校は小学校で1844校(69.5%)にも上っています。問題は、国がこうした調査を実施していないことです。こども家庭庁発足にあたって、ぜひともこうした調査を実施すべきです。調査結果を踏まえて保団連では下記の実現を求めております。ぜひ、これらに実現を図ってください。① 国の制度として、18歳までの医療費を無料とすること。
② 眼鏡・補聴器購入に対する補助制度を拡充するとともに、歯科矯正の保険適用を行うこと。
③ 未受診者が多い理由や未受診が、どのような身体的な影響を及ぼすのかの研究と対策
④ 学校における健康教育の充実及び保護者への理解の周知
⑤ 新型コロナウイルス感染症による子どもたちの心身への影響の把握と対策の一層の推進

 

四、歯科矯正に対する保険適用を行うこと。
【理由】  しっかりと噛めることは、子どもの成長にとって重要です。歯科矯正は、厚労省が指定する一部の疾患を除き原則自己負担での治療となっています。歯科検診において、機能不全に繋がる不正咬合で歯科矯正の必要があると指摘された場合は、保険適用とすべきです。また、歯科矯正医や小児歯科医との連携を図る必要があります。

 

五、妊産婦に対して疾患や受診科目による制限のない「妊産婦医療費助成制度」を国の責任でつくること。
【理由】  妊産婦が必要な医療・歯科医療を受けられることが、母体の健康はもちろん生まれてくる子どもの発達においても非常に重要です。疾患や受診科目による制限のない「妊産婦医療費助成制度」が多くの自治体で取り組まれるようになっていますが、出生率の低下を食い止め、引き上げるためにも自治体まかせにするのではなく、全国どの市町村に住んでいても経済的負担なく受けられるようにすべきです。

 

六、小児慢性特定疾病医療支援事業の窓口負担を廃止すること。また、対象疾患の治療研究の推進を図ること。さらに、小児慢性特定疾病医療支援事業を受けている者が対象年齢を過ぎた場合も引き続き支援が受けられること。白血病などのがんの子どもたちが寛解した場合も帽子や点滴カバーや中心静脈カテーテルカバーや日焼け止めなどの補助を継続すること、子どものアピアランスケアの推進・支援を図ること。
【理由】  窓口負担は受診抑制を発生させる。特に子どもについては窓口負担を設定すべきではない。また、対象疾患を有する子と親が望む最大の願いは病気の治療であり、そのための研究事業を一層進める必要がある。さらに、対象年齢がすぎてもなんらかの形で支援が受けられるようにすることも必要である。なお、アピアランスケア(がん及びがん治療に伴う外見の変化による気持ちの辛さを和らげる身体的・心理的なサポート)の推進・支援を図るべきです。

 

七、その他児童福祉法の措置に係る医療の給付や児童や妊産婦健診をはじめとした子どもや母子に関する制度についても、子どもと母体の命と健康を守る立場から、必要な見直しを行うこと。
【理由】  子どもや母子に関する様々な制度について、利用者や医療提供者にとって不十分な部分が少なくない。児童や母子に関する全ての制度について再検討を行い、子どもと母体の命と健康を守る立場から、必要な見直しを行う必要がある。

 

八、子ども及び子どものある家庭の福祉の増進及び保健の向上のために、子どもの有無を問わず、全ての国民の医療・社会保障の充実と暮らしを守る施策を進めること。
【理由】  子どもの有無を問わず全ての国民の命と健康、暮らしを守ることが、子ども及び子どものある家庭の福祉の増進及び保健の向上に必要である。子どもに対する施策の充実は当然だが、そのために国民負担増を実施してはならない。

以上