【要望書】新型コロナ感染症及び新興感染症に対する医療提供体制の確保を求める緊急要望書

全国保険医団体連合会では、政府が新型コロナウイルスの感染症法の位置づけを5月8日から5類に移行させることに伴う医療費や医療提供体制の見直し案の概要を発表したことを踏まえ、下記の要望書を総理、厚労大臣に提出しました。

2023年4月17日
全国保険医団体連合会
会長 住江 憲勇

国民の命と健康を守るため、
新型コロナ感染症及び新興感染症に対する医療提供体制の確保を求める緊急要望書

 

 政府は1月27日開催の新型コロナウイルス感染症対策本部で、新型コロナウイルスの感染症法の位置づけを5月8日より「5類」に引き下げることを決定し、3月10日には「新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけの変更に伴う医療提供体制及び公費支援の見直し等」(新型コロナウイルス感染症対策本部)を決定するとともに、診療報酬特例の見直し「新型コロナウイルス感染症の診療報酬上の取扱いについて」(中央社会保険医療協議会)が了承され、関連の事務連絡が示された。

 1月27日の「5類」引き下げ決定にあたって医療関係の委員らは5類への移行を容認したものの、「非常に感染性が高い。今後も深刻な影響を及ぼし続ける」、「医療機関での感染対策を大きく変更することは難しい」、「流行が終わったというメッセージは逆に流行の拡大を助長してしまう」などと強い警告を発し、厳しく注文を付けていた。

 ところが3月10日に発表された「医療提供体制及び公費支援の見直し」及びその後の関連通知では、下記の内容が示された。

(1) 中等症及び重症患者への診療報酬特例加算は半額に切り下げ、令和6年改定で見なおす。また、病床確保補助金は段階的に縮小し、一般医療機関で患者受け入れを段階的に行うこととし、入院調整も医療機関間での調整に切り替える。
(2) 「重症化リスクの低い者への自己検査・自宅療養の呼びかけ(自己検査キットや解熱鎮痛剤の常備を含む)」を継続する。
(3) コロナ検査や診療に対する公費負担は原則廃止(9月末までは、価格の高いコロナ治療薬の無料を継続、高額療養費の負担限度額を最大月2万円軽減)する。
(4) 新型コロナウイルス感染症患者受け入れ等により施設基準を満たせなくなった場合の特例措置は、9月30日で終了する。
(5) 新型コロナウイルス感染症にり患又は疑いのみを理由とした診療拒否は「正当な事由」に該当しない取扱いになる。

 なお、ワクチンについては、2023年度は特例臨時接種を継続するが2024年度以降は有料化を検討するとしている。

 そもそも5類への引き下げの理由として政府は、高齢者も含めて重症化率・死亡率が季節性インフルエンザよりも低下していることや経済への影響などを挙げているが、感染力は季節性インフルエンザの数倍あり、高齢者施設等でのクラスターが多数発生し、新型コロナウイルスに感染して亡くなった人の数は2023年1月一月だけで1万人を超えている。

 今の状況下で、検査や治療への公費負担を廃止し、診療報酬の特例措置や病床確保補助金等の縮小を行えば、国民の命や健康に大きな影響を生じる。

 特に検査や治療に対する公費負担の廃止は、感染症の蔓延と死亡者数の増大を招くこととなり、そうなれば日本経済に大きな悪影響を及ぼすことは必至である

 感染対策の緩和や新たな変異株の発生によって、これまで以上の感染拡大が懸念される。国民の命と健康を守るためには医療機関や施設入所等における感染対策及び治療体制の確保はさらに重要となる。

 何よりも国民の命と健康を守ることこそ政府の役割である。当会は、国民の命と健康に責任を持つ保険医・歯科保険医の立場から、5月8日からの5類移行にあたって次の対策を取るよう強く求めるものである。

一、 新型コロナ感染症によって医療崩壊を招いた原因は、医療費抑制政策にある。感染対策を強化するためにも日常的に余裕のある人員・設備・財政基盤が必要である。こうしたことから、医科・歯科診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス費を大幅に引き上げ、強靭な医療・介護・障害福祉の提供体制を構築すること。
一、 新型コロナウイルス感染症の、検査及び治療に対する公費負担を継続すること。
一、 診療報酬の特例措置及びコロナ対応病床(空床確保)への現行の財政措置を継続すること。PCR検査・抗原検査が赤字にならないよう点数を引き上げ、自己検査キットの自費使用推奨ではなく、医療機関での公費検査・診察を前提とすること。
一、 新型コロナウイルス感染症患者等の受け入れ医療機関等において、看護要員配置をはじめとした基準を満たせない場合に、直ちに施設基準の変更の届出を行わなくても良いとする特例措置を継続すること。
一、 コロナ患者の診療の有無にかかわらず、医科・歯科医療機関及び高齢者施設や障害者施設における感染対策に対する報酬評価・財政措置を行うこと。
一、 新型コロナウイルスワクチンは、2024年度以降も特例臨時接種を継続し、希望する人が無料で接種できるようにすること。なお、接種後の健康被害の調査・研究、補償の充実、治療方法の確立を図ること。
一、 新型コロナウイルス後遺症(LongCOVID)に対する調査・研究、著しい症状を来す患者への公費負担の適用、治療方法の確立を図ること。
一、 医療機関における新型コロナ感染症対策は、ガイドラインに沿って安全性を優先した取り組みを前提とすること。
一、 感染拡大期には、地域の医師・医療従事者が協力して検査等を行う「地域外来・検査センター」を増やすこと。そのため、設置・運営費用について、国が全額を負担し、出務する職員等に十分な給与・出務費を保障すること。
一、 政府として感染状況をリアルタイムで把握し、科学的知見に基づく感染症対策の継続及び国民等への周知を図ること。
一、 高齢者施設や障害者施設入所者の「留め置き死(陽性になっても入院できずに施設療養を求められ、命を落とす)」等の実態調査・分析を行い必要な入院医療の確保を図ること。
一、 入院調整に関する医療機関間の対応に対するシステム構築及び財政措置を行うとともに、構築できない地域等や医療ひっ迫時においては医療機関間だけの対応に丸投げせず、行政として必要な責任を果たすこと。
一、 感染症病床を拡大するとともに、保健所の数・体制・予算を強化し、公衆衛生行政を確立すること。

以上