重篤疾患患者に後発品使用迫る 厚労省

重篤疾患患者に後発品使用迫る 金額シェア目標を掲示 厚労省

金額ベースの後発品目標を設定

厚労省は3月13日の社会保障審議会(医療保険部会)に、医療現場で使用する後発医薬品について、全ての都道府県において医薬品総量において80%以上の「数量シェア」を目指す現行目標に加えて、新たに「金額シェア」で65%以上を目指す目標を追加することを提案した。医薬品使用において後発医薬品が占める金額シェアを現在の56.7%から2029年度末までに65%以上に引き上げるとしている。全国の都道府県で医療費抑制に向けて取り組む2024~29年度の「第4期医療費適正化計画」より本格開始する。後発品の供給不安が続き、医薬品の調達に四苦八苦する医療現場や患者の不安を顧みず、金額ベース目標まで設定し、遮二無二に後発医薬品の使用を図る政策姿勢は問題が多い。

難病・重篤疾患の患者を名指し

良質で安価な後発医薬品の使用推奨は大切だが、医療現場の感覚からすれば、「処方(調剤)するうち、どれぐらいの品目数(数量)が後発品に切り替わったか」というのが実感的になじみやすい。薬価全体に占める金額ベースでの引き上げを目指せば、価格が高い先発医薬品を使用する疾患・患者に対して、後発医薬品(価格は先発医薬品×0.4~0.5など)の使用を求める格好になる。厚労省資料では、「金額ベースで置き換えの余地があると考えられる領域(オレンジの台形)をあげて、「参考」にするよう求めているが、規模が大きい順から、代謝性医薬品(例えば、リウマチ、臓器移植関連、腎性貧血、指定難病関係、骨粗鬆症、がん治療関連)、抗がん剤(白血病など含む)、消化器器官用薬、次いで抵てんかん剤などとなっている(下段表)。がん、リウマチ、難病やてんかんなどは、後発医薬品への切り替えに伴い、患者の生活の質(QOL)や日常生活動作(ADL)含め予後の悪化に留まらず、余命にも大きな影響を及ぼしうることも危惧される。ADLが低下する慢性疾患・難病、重篤な疾患を抱える患者を狙い撃ちして、後発医薬品の使用を強いるようなことは、許されるものではない。

 

社会保障審議会・医療保険部会資料(2024年3月14日)

全都道府県で70%台前半に到達済み

後発医薬品が医薬品全体のうち数量で80%以上を占める目標については継続される形だが、現在29道県で80%以上を達成し、未達成は18都府県と報告されている。しかし、最低の徳島県や奈良県でも73~74%の水準に達しており、極端に低い状況にあるわけではない。地域に応じて患者・疾患の構成・特性が異なる上、地域の卸売はじめ医薬品の供給網の問題もあり、後発品への切り替えが進まない事情に十分な配慮が必要である。
そもそも、後発医薬品に切り替えることで効き目が落ちたり、予期せぬ副作用が出るケースが臨床現場では日常的に報告されている。液体・ジェル・クリームなど質感の違いもあり、先発医薬品品と同一視はできない。現状の全国ベースで80.2%(数量シェア)の状況は、事実上、“満点”に近いとみるべきである。

バイオ医薬品も数量目標設定へ

厚労省は、抗がん剤などで主流になりつつある「バイオ医薬品」において後発品に該当する「バイオシミラー」ついて、使用数量の目標も設けると提案している。2029年度末までに、バイオシミラーが80%以上を占める成分数が全体の成分数の60%以上となることを目指す。現在、我が国で承認されているバイオシミラーは18成分(115品目)、うち保険収載は17成分(114品目)であり、リウマチ、がん(治療に伴う副作用含め)、難病、骨粗鬆症、腎性貧血(透析施行中含め)などで使用されている。
厚労省資料(2023年6月の医療保険部会)によれば、バイオシミラーへの置き換えが40%台以下の品目として、トラツズマブ(胃がん)、エタネルセプト(関節リウマチ)、ソマトロピン(先天性の低身長症)、インフリキシマブ(関節リウマチ)、テリパラチド(骨粗鬆症)などが示されている。
バイオ医薬品はがんや自己免疫疾患など難治性疾患の治療薬に期待され、大きな効果も上げ始めている。患者にとってバイオシミラーによる経済的負担の軽減は朗報だが、定常化・安定している状況から切り替えに伴い変化が生じうる不安・懸念は少なくない。バイオ医薬品(シミラー含め)は、たんぱく質や、バクテリアなどの生物を利用するため複雑な製造工程が要求される上、原末調達から製剤化に至るまで工程の大半を海外に大きく依存している。需要予測の不安定さも加わり、安定供給確保が大きな課題である。

社会保障審議会・医療保険部会資料(2023年6月29日)

医療費抑制効果は限定される

2021年9月時点での医薬品の金額総額(薬価ベース)は、後発医薬品は1.7兆円に対して、後発医薬品のある先発医薬品(長期収載品)は1.9兆円である。2024年から後発医薬品の金額シェア56.7%(※)を2029年に65%に引き上げていくとした場合、長期収載品は後発医薬品に順次移行していき、金額は削減される。かりに長期収載品の金額が3分の1カットされるとした場合6千億円(6年間)で、年1千億円となる(もっとも、供給不安問題が続き、相当に困難だが)。現在の医療費総額(2022年度)・年46.0兆円から見れば、0.2%程度の削減にすぎない。薬剤費全体の上昇が見込まれるため、後発医薬品やバイオシミラーへの移行の促進によって、薬剤費の圧縮額(削減額)はさらに増えるにしても、医療費の伸び全体をドラスティックに抑えるようなものではない。全体の品目数のうち14%に対して、薬剤費の65%を占める新薬の高薬価こそ適正化すべきである。
(※)後発品の金額シェア=後発品の金額【薬価ベース】/(後発品の金額【同上】+長期収載品の
金額【同上】)

安定供給確保を最優先に置くべき

医薬品の限定出荷・供給停止は26%(4,629品目)に及び、国は、他の生産ラインからの緊急融通、メーカー在庫の放出、供給状況の公開(医療機関における見通しの確保)から、不採算品再算定など薬価下支えに至るまで様々に手を尽くすも、改善していない。設備投資・業界再編の影響が出始めるのは数年から10数年先の問題であり、供給不安の抜本的な解消の見通しは立っていない。新たな目標の達成に向けて、厚労省は、限定出荷などとなっている品目(成分)を除いた数量シェアや、薬効分類(適応疾患等)別での後発医薬品使用状況などを示して、都道府県において取り組みを進めるよう求めている。
国は、後発医薬品の数値目標に固執して、自治体、医療現場を右往左往させ、安全・安心な医療提供に支障をもたらすのではなく、医薬品の安定供給確保に最優先で取り組み、患者・医療現場の信頼・安心感を回復することにこそ努めるべきではないか。