第2回 なぜ実現していないのか
福沢恵子(「別姓訴訟を支える会」代表)
唯一の例外
法務大臣の諮問機関に法制審議会という組織がある。ここで法案要綱が答申されると、新しく法律が成立、もしくは既存の法律が改正される。ところが、ほとんど唯一の例外が1996年に答申があった選択的夫婦別姓だ。この民法改正案は内閣提出法律案としてはいまだに国会に提出されておらず、2023年までに何度も野党からの法律案の提出が行われているものの、法改正は実現していない。これは極めて異常なことである。
1999年に施行された男女共同参画基本法に基づき策定された男女共同参画基本計画においても、選択的夫婦別姓などを含む民法改正は検討事項に揚げられているが、2020年の第5次男女共同参画基本計画案では、政府は「選択的夫婦別姓」の文言を削除した修正案を自民党に示した。これは自民党内でも、賛成派と反対派が対立していることから、導入に前向きな表現を望んでいた政府が自民党の反対派に「忖度」したものと見られている。
国民の大多数は夫婦別姓を容認
昨今の世論調査の結果では、調査ごとに若干の違いはあるものの、明確な「選択的夫婦別姓反対」は3割かそれ以下であり、「賛成」「どちらでも良い」といった回答を合わせると7割から8割である。これは「自分は夫婦別姓で結婚したい」もしくは「自分が結婚する時は夫婦同姓を選ぶかもしれないが、他の夫婦が別姓を選んでもそれは個人の選択で他人がとやかく言うべきではない」という感覚が一般に広まっていると解釈すべきだろう。つまり、多様性のある夫婦のあり方についての社会的容認は既に定着しているのである。
ところが、頑として「反対」を唱える一群が存在する。それが、自民党内で一部の宗教団体などが支持母体になっているとされている議員たちである。このような団体はいわゆる「伝統的(と、彼らが考える)家族」を理想とする価値観を持ち、それはすなわち家父長制の維持に他ならない。これらの団体は「女性が社会や家庭において男性と平等の権利を持つことに嫌悪感を持つ」という感覚を共有している。そうであれば「夫の姓に改姓したがらない女性など許せない」となるのは当然のことだろう。
結婚減少と少子化につながる。
反対派の団体や議員は「家族の一体感のためにも家族が同じ姓を名乗るのは当然だ」と主張する。しかし、「一体」になるために改姓を強制される立場の人(=圧倒的多数は女性)のアイデンティティの喪失感や実生活での不便についてはおよそ思いが及ばないようだ。
このような一群の強硬な反対で30年近くも法改正が棚上げされてきたわけだが、それは少子化の急速な進行と重なる。夫婦のあり方の多様性を許さない社会に対して結婚や出産を忌避する若い世代が増えても何ら不思議ではない。選択的夫婦別姓の導入を先送りし続けることは結婚数の減少、ひいては一層の少子化につながるのだ。(つづく)
(全国保険医新聞2023年12月25日号掲載)
(ふくざわ・けいこ)
「別姓訴訟を支える会」代表。夫が改姓した法律婚1年を経て事実婚に移行。今年で38年目。そろそろ医療的同意や相続などが現実問題となりつつあり、事実婚の課題や限界を感じている。早稲田大学政治経済学部卒業。朝日新聞記者を経て1990年独立。