連載 選択的夫婦別姓⑤ 旧姓併記ではイタチごっこ

第5回 旧姓併記ではイタチごっこ

小国香織(「別姓訴訟を支える会」副代表)

私は結婚時に夫の姓を選ぶ形で婚姻届を出した。改姓することが苦痛に感じたのでいわゆる「事実婚」の道も夫婦で検討したが、私は法律婚しないことへの不安が強かったので、最終的に法律婚を望む方が改姓するしかないと思い、届出を提出するに至った。

行政書士会として旧姓使用認める

私は国家資格である行政書士の登録をしている。医師を含めた他の職種と同様に登録上は原則として戸籍姓なのだが、私が結婚する数年前に先輩方が行政書士会に強い働きかけをしたということで旧姓使用を認める制度ができ、現在まで旧姓を使い続けられている。国からは正式な名前として認められないが、行政書士会という権威ある組織が元々の名前で活動をしていいと認め、その証明書に書かれているからこそ仕事上は安心して活動できている。

ただ、このように「恵まれて」いるように見えても、旧姓が使用できない場はある。

旧姓「併記」と確定申告の試行錯誤

私は個人事業主で毎年確定申告をしている。紙の申告書で申告していた頃には、税務署は税収を得るためなら些細なことにはこだわらないのか、手書きで旧姓を書いて出しても受理していた。その後オンラインでパソコンから申告できる「e–Tax」を利用し始めたが、本人確認を住民登録に紐づく公的個人認証のシステムを使って行うため、ここでは旧姓が入り込むすきがなくなった。

2019年にマイナンバーカードと住民登録に旧姓を併記できる制度が始まり、その登録をしたところ、オンライン上でやり取りする公的個人認証のデータ上は戸籍上の名前と旧姓が「併記」される形になった。この認証データで申告をすれば旧姓で堂々と申告ができるかもしれないと思い、エラーが出ることを覚悟しながら、おっかなびっくりで旧姓のみ打ち込み、送信した。申告上、還付金を受けるために旧姓で維持している口座を指定した。申告者名が旧姓、還付金を受ける口座も旧姓である。

ところが、還付金が振り込まれる時期になって、地元の税務署から「名義人違いで振り込みができなかった」という郵送物が来た。郵送物の返送後、電話でもやりとりをしたが、税務署の結論は「申告者として旧姓を書いたことが確認できたので旧姓口座への振り込みでOKです」であった。

国がマイナンバーカードに旧姓併記を認める制度を作っても、当然にうまくいくのではなく、このように試行錯誤の連続である。結婚時に戸籍上の姓を変えない選択ができる制度ができないと根本的な解決はなく、常にどこかで同じ問題が起き続けるのである。

(全国保険医新聞2024年4月5日号掲載)

(おぐに・かおり)

「別姓訴訟を支える会」副代表。行政書士。2006年に夫の姓を夫婦の姓として法律婚をして今に至る。旧姓を職名として使うことが認められている国家資格のため法律婚を維持し旧姓使用中。第一次別姓訴訟の原告。