第8回 勤務医の改姓シミュレーション
西 清孝(第3次選択的夫婦別姓訴訟原告)
結婚時に2人ともが名前を変えない選択肢を持てる制度、それが「選択的夫婦別姓」。世論調査でも賛成多数で、導入されないのが不思議な今日この頃ですが、中には「旧姓使用でいいじゃないか」と主張する人もいます。そこで、「勤務医が改姓し旧姓使用するとどうなるのか」をシミュレーションしてみましょう。男性は、自分は改姓しない、旧姓使用は無関係、と思うかもしれませんが、改姓するのは夫妻どちらか、50%です。さあレッツシミュレーション!
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想像しましょう。あなたは素晴らしいパートナーと結婚し、幸せの絶頂にいます。待っているのは充実した日々….否、名義変更手続きです。まずは住民票の写しを入手します。銀行などは一部の銀行・口座を除き窓口のみの対応で、平日しかやってないので、手術や外来を調整し有給休暇を取得しましょう。
インターネットで手続きできる口座でも、住民票や戸籍謄本は本人確認書類として認められない場合があります。その場合は免許証やパスポートなどを先に変更する必要があり、順番を間違えると大変です。ほかにもクレジットカード、マイナンバーカード、携帯電話、生命保険など、名義変更の道のりは長く険しいです。うっかり必要書類を忘れたら有給1日追加、なんてことも。
名義変更が終了し、次は旧姓使用することを各所へ報告する必要があります。週1で外来だけ行く病院等にも言っておかないと、「銀行口座の名義が違うんですけど」と連絡が来るかもしれません。旧姓使用は多くの事務作業が発生します。「この届出は新姓だけどこの書類は旧姓、これは……どっちだ?」という風に、使い分けが大変なのです。
医籍の姓は戸籍にそろえる必要がありますが、医師免許は旧姓のまま使用していたある日。ある患者が何を思ったか、外来で見たあなたの名前を厚労省の「医師等資格確認検索システム」で検索。この検索システムは医籍で登録されるため、当然出てきません。いぶかしんだ患者は「お前はニセ医者だ」と診察で言ってきて、次から来なくなってしまいました。
「さすがにそれはナイ」と思いましたか?本当にあった話ですよ~。
論文にも影響が出ます。あなたのこれまでの実績は旧姓で登録されています。今後、新姓で論文を出す場合、データベース上では旧姓の実績と分断されてしまいます。困りましたね。
ここまで読み、「そんなに大変なら改姓しなきゃいい」と思いましたか?あなたが大変だと思うなら、それはパートナーにとっても同じこと。今の日本ではどちらかが「大変なこと」をしなくちゃならない法律になっています。「大変なこと」、やりたくない夫婦はやらなくてもいい方がいいですよね⁉ それが選択的夫婦別姓です!
(全国保険医新聞2024年6月25日号掲載)
(にし・きよたか)
第3次別姓訴訟の原告の一人。一度は妻に改姓を強いて法律婚したが、その後事実婚に移行。札幌市の病院でコメディカルとして勤務。超音波検査などを担当し、得意な業務は心エコー。腹部エコーは少し苦手です…。