第9回 夫改姓の3つの壁
佐藤万奈(第3次選択的夫婦別姓訴訟原告)
現在の婚姻制度は、“夫または妻が改姓しなくては法律婚できない”という条件付きのものです。必ず一方は改姓しなくてはいけない制度であり、その役回りはほぼ女性が担っています。多くの男性と同じように、改姓したくないと考える女性もいます。しかし、改姓したくなくても見えない圧力があり、結果的には嫌々改姓せざるを得ないケースも多いです。「(妻が改姓したくないなら)夫に改姓してもらえばいいじゃないか」と言う人もいますが、そんな簡単なものではありません。今回はその障壁を3つに分けてご紹介します。
①夫の壁
第一関門です。夫の理解を得られるのか。日本の男性は「人生で自分が改姓する」と考えていないことが多いと思うので、まずは夫も自分が改姓するかもしれない立場であることを意識してもらうところからです。
また、「妻が改姓しない=自分が改姓する=自分が不利益を被るかも」となるので、抵抗感を持つかもしれません。改姓すること自体は面倒だったり不利益が生じる場合も多々あるからです。
②親族の壁
夫の壁を乗り越えると、次は親族に理解してもらわなければなりません。女性が改姓したくないと両親などの親族に伝えると、「わがまま言うな」「夫が可哀そうだ」と言われることも…(女性が改姓するときは夫側には何も言わないくせに)。夫の親族と自分の親族が全員「お前が改姓しろ」と詰め寄られたら抗うことも困難です。仮に夫が改姓を受け入れた場合でも、彼はそれほど味方にはなってくれないかもしれません。「妻のわがままを受け入れてやった」という思いが少しでもあるなら尚更です。
③周囲の壁
この壁は主に職場で発生します。高くはありませんが人の数だけ壁ができます。「女性は結婚したら名字が変わる」ことがデフォルト(と刷り込まれている)の日本。「なぜ名字変わってないの?」「婿養子なの?(本当は誤用)」と聞いてくる人に毎度毎度答えなくてはいけません。最も、この壁は改姓した夫の方にも生じていることでしょう。女性が改姓せず、男性が改姓するだけで周囲の反応は大きく違います。こういった男女の非対称性が男女不平等に直結しています。
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改姓というものはデメリットも多くあり、「女性はみんな喜んで改姓する」というのは幻想です。勿論パートナーの名字にしたい、という人もいるでしょうけど、「改姓したくない」と夫婦どちらも考えているパターンは決して珍しくありません。“夫または妻が改姓しなくては法律婚できない”という条件を取り払う選択的夫婦別姓を、私は待っています。
(全国保険医新聞2024年8月25日号掲載)
(さとう・まな)
第3次夫婦別姓訴訟の原告。1度改姓するも、当時の職場だった総合病院が旧姓使用できず、ペーパー離婚し事実婚状態となる。趣味は膵臓をいかにキレイに描出するか。