“詫び状”を受けて
内山 由香里(第3次選択的夫婦別姓訴訟原告)
先輩女性から高評価のリベラル夫?
夫と私は同じ職場で同僚として知り合った。当時20代前半だった私は、子どもを育てながらバリバリ働くパワフルな30代、40代の先輩教員のお姉様方が男性の無理解をこき下ろしながら「結婚するなら小池さん(夫)みたいな人よね~」と話していたのを覚えている。
夫は私より10歳年上。やんちゃな生徒が多かった学校でも「ジャッキー(当時の夫のあだ名)があまりにも熱く語るから、つい聞いちゃう」と生徒に言わしめる熱意あふれる授業をする社会科教員で、親切でまめな性格、一人暮らしが長く家事は何でもできることから、既婚女性には 人気があった。平和教育にも熱心で、会議でもリベラルな発言が多かったので話も合うなあと感じていたし、お目が高いお姉様方のお墨付きなら安心だと、無理解な父に母が苦しむのを見て育った私は内心ホッとしていた。
「結婚おめでとう、名前変わるんだね」
結婚することが周囲に伝わり、ある日同僚から「結婚するんだって?おめでとう。『小池さん』になるんだね。仕事はどうするの?」と声をかけられた。同じ質問を夫には決してしないということに気づいた瞬間、私の別姓スイッチが入った。30年以上前のことなのに一言一句忘れられない。
夫の実家に向かう車中で「別姓にしたいから、婚姻届は出さず事実婚にしたいんだけど」と極めてカジュアルに話しかけたところ、夫は路肩に車を停め「この話はなかったことにしよう」とのたまった。私が結婚しようと思った相手はリベラルな皮をかぶった「ザ・保守の男」だったの?!
ショックを受けた。その後紆余曲折あり婚姻届を出した後も隙あらば別姓の話を持ち出したが、いつも話は平行線で険悪なムードになった。
当事者意識がゼロから3%くらいに
ところが1冊の本を読んで夫の態度は豹変。「言い分はわかったから事実婚にしよう」ということになり、離婚届を提出した。自分の名前を取り戻せて嬉しかったが、同じことを私が言っていた時には全く受け入れなかったのに、と複雑な気持ちになった。
しかしもっとショックだったのは、今回裁判の原告になるにあたって昔のことを話した際に、夫はほぼ覚えていなかったこと。当事者でないということはこういうことなのだと痛感した。
ともあれ、裁判のおかげで夫も当事者感がゼロから3%くらいになり、本連載第12回で「詫び状」をしたためた。これから一緒に、別姓も選べる社会と最高裁での違憲判決を目指していこうと思っている。
(全国保険医新聞2024年11月25日号掲載)
(うちやま・ゆかり)
第3次選択的夫婦別姓訴訟原告。長野県の片田舎で高校の英語教員をしている。3人の子どもは独立、今年初孫が生まれた。夫が作りすぎる野菜たちと日々戦って(=料理に明け暮れて)いる。