連載 選択的夫婦別姓(16) 「姓」+「名」、これが「私」

第16回 「姓」+「名」、これが「私」

上田めぐみ  第3次選択的夫婦別姓訴訟原告

 

両親の愛情が詰まった、この氏名

まずは「名」の話から始めたい。

私の名前は「めぐみ」。母は4度の流産に加え、出産直前に医療ミスによる死産も経験し、もう子どもは諦めた方がいいという医師の助言もありながら、自分の命を危険にさらして私を出産した。ようやく恵まれた子で、これからもずっと恵まれるよう「めぐみ」と名づけた。そしてこの先、私が障がいを持つようなことがあっても、名前だけは自分で書けるようになってほしいという思いを込めて、ひらがなにした。
幼い頃からこの話を何度も聞き、両親からたくさんの愛情を受けて育った私は、自分の名をとても気に入っている。
姓は両親が名乗っていた、もともと父方の「上田」を譲り受けたわけだが、「上田めぐみ」というこの組み合わせがとても好きだ。「上」も「田」も小学1年生で習う漢字で、ひらがなも然り、とても簡単なうえ、画数が少ないと文字列の空間があり、名前がズラリと掲載されるような場面で非常に見つけやすい。

中学時代の思いと、まさかの30年後

「結婚するなら簡単な名字の人じゃないとダメ」と本気で思っていた時期もあったが、1990年代前半、私が中学生の頃から、96年の法制審議会の民法改正の答申につながる選択的夫婦別姓制度の議論が活発になり、強い関心を持った。

「たしかに、どうして女性ばかり結婚すると姓を変えるんだろう?私は変えたくないなぁ」と思うようになった。選択できるのであれば、私は両親の愛情が詰まったこの氏名を変えずに済む。自分が大人になる頃には法改正されていると信じていたのに、それから三十数年経ってまさか自分が議論の当事者になるとは思ってもいなかった。

「なぜ改姓したくないの」という愚問

取材などでよく「どうして改姓したくないのですか?」と聞かれるが、正直理由なんてない。

「この『姓』と『名』の組み合わせが『私』だから」というだけだ。

「その質問を男性にしますか?」と聞き返すと、たいてい記者はハッとする。いつも女性だけが改姓したくない理由を求められることに、ジェンダー不平等な社会構造を感じ、憤っている。

誰もが姓で悩まずにすむ世の中に

6年前に出産した際、子どもの名づけにはずいぶん時間を要した。親のさまざまな気持ちをどのような文字で表すか、姓との組み合わせはどうか、外国語で紹介する時にも意図が伝わるかなど、考えに考え抜いて名づけた。

将来その氏名をどうするかは子どもが決定することではあるが、親としては、こんなに苦労して考えた姓名の組み合わせをそう簡単に手放してほしくないと思っている。

そして誰もが姓で悩むことなどない世の中になるよう、闘っている。

(全国保険医新聞2025年2月15日号掲載)

(うえだ・めぐみ)

第3次選択的夫婦別姓訴訟原告。別姓訴訟を支える会事務局も兼務。事実婚で5歳の子を育てる。本業は開発途上国人材の育成機関の職員。この1年半はインド案件の担当となり、頻繁に出張する生活のため、もうカレーはお腹いっぱい。