連載 選択的夫婦別姓(20) 28年ぶりの国会審議

第20回(最終回) 28年ぶりの国会審議

榊原富士子(弁護士)

初めて当事者が意見陳述

第217回通常国会で28年ぶりに衆議院で選択的夫婦別姓の法案が審議入りし、初めて当事者らが参考人として意見を述べた。一般社団法人あすには代表の井田奈穂さんは婚姻改姓または通称使用で苦しむさまざまな実例を示した。若い事実婚の割田伊織さんは婚姻届が出せるよう改正を待ち望む気持ちを述べた。第3次別姓訴訟弁護団長の寺原真希子さんは、最高裁は改姓によるアイデンティティの喪失感を認めている等、判例の正しい読み方を解説し、一般社団法人男女共同参画学協会連絡会の志牟田美佐さんは、氏名が看板である研究者の改姓の苦しみや通称の不都合を浮き彫りにした調査結果を紹介した。いずれも迫力ある意見陳述となった。

野党提出の3法案

提出された3法案は、96年の法制審案と同一の立憲民主党案、これとほぼ同一の国民民主党案、日本維新の会の通称法制化案である。
通称法制化案は、ダブルネーム、システム改修のコスト高、官民による膨大な個別検討作業量、所要時間などの点から賛同できないことを本連載第19回で書いた。しかし、困りごとを解消させようという意欲や、案を示して国会で堂々と議論する姿勢には共感でき、維新案の存在により立憲案や国民案も深まったと思えた。

与党反対派の主張と、それへの反論

一方、与党内の反対派は維新案に賛成でもないのに、同案の「旧氏単記」を認めれば選択的夫婦別姓は必要ないと述べるなど、初めて可視化された維新案を反対の根拠として利用するというねじれた関係も見えた。反対派があげた理由は、①戸籍制度の崩壊(夫婦同氏同戸籍という戸籍の根幹を変える)、②親子別姓で子がかわいそう、③家族の破壊にほぼ集約される。
しかし、①については、戸籍の本質的で重要な機能は「親族関係の公証・検索」であり、別姓夫婦が別氏同戸籍でも機能に変化はない(法務省民事局長答弁)。これまでも戸籍制度は、プライバシー保護の要請による「公示」機能の廃止、技術の進歩によるコンピュータ化など、人権の進展・時代の要請に沿って大きな改革を遂げてきている。
②は、すでにたくさん存在する子連れ再婚など別氏親子への偏見からの発想であり、別氏夫婦があたり前になれば差別は起こらないし、仮に子への差別が起きたならばそれは間違っていることを大人が教えるべきだ。
③は、氏の維持のために事実婚にとどまっている夫婦は、法律上の家族、同戸籍になりたがっているのであり、家族の破壊とは真逆である。
国会ではこうした点もすでに明らかにされたが継続審議となった。秋の国会では野党案の統一と与党賛成派との協力による改正の実現を期待したい。
(おわり)

(全国保険医新聞2025年6月25日号掲載)

(さかきばら・ふじこ)

弁護士。第1次・第2次夫婦別姓訴訟弁護団団長。1984年に選択的夫婦別姓をすすめる会を立ち上げた。榊原富士子・寺原真希子編著『夫婦同姓・別姓を選べる社会へ』(恒春閣)ほか。