名前、変わります。それでも選択的夫婦別姓を支持します。
歯科医師(熊本県在住)
私は一昨年に結婚し、夫の姓に改姓しました。改姓に伴う手続きの煩雑さはあったものの、日常生活では大きな支障を感じることなく過ごしています。しかしそれでも、私は選択的夫婦別姓制度を支持しています。なぜなら、私自身が不自由を感じなかったとしても、「名前を変えたくない」「変えることでキャリアやアイデンティティに影響がある」と感じている人が確かに存在するからです。そして今の制度では、そうした人たちが結婚と引き換えに自分の名前を手放さなければならない現実があります。
夫婦が同じ姓を名乗ることで、家族としての一体感が深まるという意見があります。もちろん、その価値観を否定するものではありません。しかし、「同姓でなければ家族ではない」といった考え方が唯一の正解として制度化されていることには、やはり違和感があります。選択的夫婦別姓制度は、「同姓を望む人がそうできる」自由と同時に、「別姓を選びたい人がそうできる」自由を認めるものです。どちらかを否定するものではなく、どちらの生き方も尊重する社会への一歩だと思います。
医療や福祉の現場では、多様な家族の形に日々接します。血縁や姓だけでは語れない、実にさまざまな人間関係が支え合い、暮らしを成り立たせています。だからこそ、制度もまた多様な現実に寄り添えるものであるべきではないでしょうか。
最初に、大きな支障なく日常生活を過ごしていると書きましたが、これは旧姓の通称使用の拡大が進んでいるからであり、正しく声をあげてくださった先輩方の恩恵だと思います。しかし通称使用には限界を感じます。通称法制化では解決できない問題も多くあります。
現行の民法では、婚姻に際し夫婦いずれかの姓を選択することが求められ、95%のケースで女性が改姓しています。氏名は単なる呼称ではなく、職業的な実績や社会的な信用、個人のアイデンティと深く結びついているのです。
姓を変えるかどうかは、本来、人生に関わるとても大切な選択です。その選択肢が法的に閉ざされている現状を見過ごさず、少しずつでも声をあげていきたいと思います。
(全国保険医新聞2025年6月25日号掲載)