第103回 高齢化社会の医療需要の多様化への対応

勤務医コラム 第103回 高齢化社会の医療需要の多様化への対応

熊本県の阿蘇医療センターは、急性期医療を担う阿蘇医療圏の拠点病院(124床)です。阿蘇市は高齢化率が42%を超え、支援・介護を要する患者や認知症を有する患者が増加している状況にあります。
また当院は二次救急医療機関として圏域の約60%(年間約千件)の救急患者を受け入れていますが、今後、高齢患者の時間外救急搬送の増加も懸念されるところです。
高齢者人口増に伴い、行政・医療・介護の多分野多職種の協働による地域包括ケアシステムも整備されてきましたが、多種多様化する高齢者の医療需要に関しては、引き続き医療機関が中心的役割を果たしていくことになります。
当院は小規模病院で医療スタッフ数が限られていますが、高齢者特有の疾患に適切に対応するため、医師をはじめ多職種による医療チームの編成に取り組んできました。幸い常勤の歯科口腔外科専門医も在職しており、医科歯科連携による口腔ケアも含めた全人的ケアが可能なチーム医療体制を整備しています。高齢者医療に関しては、骨折リエゾンサービス(FLSチーム)、認知症ケアチーム、心不全チーム、褥瘡対策チーム、栄養サポートチーム、身体的拘束最小化チーム、緩和ケアチーム、感染制御チーム、在宅医療サポートセンター(地域医療連携部と協働)が成果を上げています。
チーム医療のメリットは、▽医師と医療専門職との信頼関係の構築▽医療の質向上▽多職種間の業務補完と専門性の相互理解▽医療スタッフの負担軽減(タスクシェアに好影響)―等があり、地域医療連携部を介しては介護・福祉施設等の職員との協働にも効果をもたらしています。
現在、5人の地域枠の常勤医師の他、複数の初期・後期研修医を受け入れていますが、医科歯科連携によるチーム医療への参画は総合的な知見を得る機会となります。高齢者医療においては、老年医学的アプローチなど専門分野以外の識見が不可欠であり、地域医療機関での臨床経験は有益なものとなっています。

甲斐 豊

1987年熊本大学医学部卒業。熊本地域医療センター、人吉総合病院、済生会熊本病院、熊本赤十字病院、熊本大学医学部脳卒中・急性冠症候群医療連携寄附講座特任教授などを経て、2014年から阿蘇医療センター院長・事業管理者