特集「誰がケアを担っているのか?
女、男、子供、非正規、外国人……」
育児や介護、家事など、社会の再生産に必要な「ケア労働」は、誰が担っているのだろうか。政府は「介護の社会化」や「女性の活躍」を掲げて介護保険制度や待機児童対策を進めてきたが、市場化・民営化で国の役割が縮減され、ケアの責任を再度、家族に負わせることになった。さらに、家族内や労働市場においては、弱い立場の人々が無償または低賃金でケアを担っており、偏ったケア負担がジェンダー不平等を温存する「装置」として機能する状況が見えてくる。
特集では、日本のケアを担う人々の実態を通して、ケア負担のいびつな構造を見つめ、根底にある問題点を探る。
近代家族とケア労働──新型コロナで露呈したジェンダー問題
新型コロナの流行は、女性の生活の様々な側面に深刻な影響を与えていることが国内外で明らかになった。家庭内の無償労働のジェンダー的偏り、雇用労働としての過酷なケア労働、公務労働の過重負担と釣り合わない待遇など、それらは一見ばらばらのようだが、ケアの価値が十分に評価されないことによるひずみが、女性にしわ寄せされたという共通の現象であることが見えてくる。本稿では、コロナ禍で露呈したジェンダー問題を明らかにするとともに、「近代家族」におけるケア負担について歴史社会学的に概観し、持続可能な社会的再生産の仕組みについて考える。
落合 恵美子
家族介護はどこまで変わったのか 男性介護者への見方から分かる「色眼鏡」
要介護高齢者の主たる家族介護者が男性であるケースは、現在決して珍しくない。男性介護者の増加は少子化・高齢化の必然だが、これは、高齢者介護をめぐる家族や男女のあり方の変化と見て良いのだろうか。本稿ではこの問いを、夫方の親を中心とした議論の枠組みや、高齢者の世話を介護に限定して考えることの問題、および「男らしさ」とケアの親和性という観点から検討しつつ、要介護高齢者とその家族を見る際にはたらくわれわれの先入観(色眼鏡)に注意を促す。
平山 亮
人権としての住民ケアを担う非正規公務員──官製ワーキングプアの女性たち
自治体の公共サービスは、貧富の格差を超え、基本的人権としてのケアを住民に保障するものだ。そうした「ケア的公務」の軽視や、担い手である女性への差別意識をテコに、この部門は「官製ワーキングプア」と呼ばれるほど低待遇の非正規公務員に担われてきた。2020年度からは、これを合法化する「会計年度任用職員制度」が始まり、民間委託やIT・ロボット化による新しいケア的公務の空洞化も進められている。非正規問題だけでなく、多角的なケア的公務の立て直しが最重要課題となりつつある。
竹信 三恵子
医療現場でヤングケアラーをどう支えていくか「付き添い」の子どもに目を向ける
長谷川拓人
ケア労働のグローバル市場化と移民女性を取り巻く問題
定松 文
論考
第24回国際エイズ会議 アジアで感染増加、再び危険水域に
第24回国際エイズ会議(AIDS2022)が2022年7月29日から8月2日、カナダ・モントリオール市で開催された。HIV感染者や支援者、医師・歯科医師、研究者ら世界150カ国から1万人が現地で参加し、米大統領首席医療顧問で国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)所長のアンソニー・ファウチ医師ら3千人がWeb上で参加した。新たな感染症に備える必要性が高まる中、特に日本では、十分な予算を付け、医師や看護師、医療機関等を抜本的に増やすべきだ。
杉山 正隆
診療研究
心不全治療の新たな展開(4)心不全パンデミックに向けてのICTを用いた地域連携
日本は超高齢社会の到来とともに心不全患者は急増し、2030年には「心不全パンデミック」が到来するといわれている。このパンデミックは永続的なものであることが予想されるため、現状にない医療体制づくりを考えていかなければならない。地域医療施設との連携をより一層強化することが重要であり、そのためのツールとしてICTの導入は必要不可欠である。今回、「心不全パンデミック」に向けての当院での取り組みと、ICT導入について報告する。
瀬在 明
文化
「痛み」との闘い 第2回 全身麻酔薬
かつての手術は拷問に等しいものであった。たとえ抜歯やイボの切除のような小手術であっても、痛みから逃れようとする患者を抑制するために屈強な助手の存在が必要であった。そして外科医には何よりも手早い手技が求められた。そんな外科手術のあり方を大きく変えたものがある。全身麻酔薬の登場である。
笠原 浩