特集「食べ物が足りなくなる前に」
地球規模の人口爆発による食糧危機の到来が予想されている中で、現在、全世界の年間食料生産量のうち約3分の1が廃棄され、約8億人の人々が食料不足に苦しんでいる。日本でも、日々、膨大な食品ロスが生じる一方で、満足に食生活を送れない子供たちなどの存在が顕在化しており、こうした食の不平等と不均衡は、ウクライナ侵攻を背景とする物価高騰と円安による食料品の値上げで、さらなる悪化が懸念される。その一方で、食料の生産現場では、効率性を重視するあまり、環境や生物に大きな負荷がかかる方法がとられており、持続可能性や生命に対する倫理が問われている。
行き過ぎた市場原理によって歪ゆがめられた私たちの食生活をどう転換するべきか、また、消費者としてどのような行動が求められるのか。社会のあり方や命の循環の中で食生活を捉え直し、新しい「食」のかたちを考える。
硬直した「食」のかたちを解きほぐすために
ロシアによるウクライナ侵攻を背景とした物価高騰や急激な円安により、食料品が値上がりし、私たちの生活を直撃している。しかし、すでに全世界では約8億人もの人々が飢餓に苦しみ、日本でも満足に食事が取れない子どもたちが存在している。この物価高騰は、食の不平等と不均衡が生じている社会にどのような影響をもたらすのか。また、近年急増している子ども食堂をどう評価すればいいのか。子ども食堂の「弱目的性」に注目し、孤食でも共食でもない「縁食」を提唱する藤原辰史氏に聞いた(聞き手・構成:編集部)。
藤原 辰史
食品ロスがもたらす多大な損失──食の不平等、経済的損失、気候変動
十分な食べ物を得られない人々が世界に8億人以上いる一方で、年間生産量の3分の1もの食料が廃棄されている。その多大な経済損失のみならず、気候変動にも大きな影響を及ぼしているため、その削減が大きな課題になっている。日本でも欠品ペナルティや3分の1ルール、コンビニ会計など独特な商慣習を背景に、多大な食品ロスが発生。また、日本の食品ロスの半分近くが家庭から発生しているため、私たち消費者の行動も問われている。本稿では、食品ロスを減らし、食の不平等を解消するために何が必要かを考える。
井出 留美
命をいただく者として何が問われているのか──アニマルウェルフェア
アニマルウェルフェア(動物福祉)は、欧米ではよく知られた概念だ。「動物たちは生まれてから死ぬまで、その動物本来の行動を取ることができ、幸福な状態でなければならない」という考えの下、多くの国や企業で、採卵鶏のケージ飼いなどが禁止されている。一方、日本は、約9割の採卵鶏がB5サイズほどのケージの中で飼われているなど、大きく後れを取っている。「どうせ食べてしまうのだから」と言う人もいるが、動物の福祉を考える必要はないのだろうか。
枝廣 淳子
新津 尚子
ウナギの絶滅を防ぐために何が必要か
ニホンウナギは国際自然保護連合(IUCN)と環境省のレッドリストで「絶滅危惧種」とされているにもかかわらず、うな丼や蒲かば焼きなど、ウナギ料理として広く食され続けている。ここまで減少した原因として、過剰な消費、成育場環境の劣化、海洋環境の変化などが挙げられる。絶滅を防ぐために、現在、どのような対策が取られているのか。また、完全養殖が商業化されれば絶滅を防ぐことはできるのか。本稿では、資源管理の問題点を指摘するとともに、私たちがニホンウナギと末永く付き合っていくために必要なことを考える。
フードテックから見る食の未来──代替肉、培養肉、昆虫食、3Dフードプリンターなど
新しい食の技術はフードテックと呼ばれ、さまざまなテクノロジーが食の分野にイノベーションを引き起こしている。人口増加などに伴うタンパク質の需要増加を満たすために、培養肉や植物性代替肉の開発が激化している。また、3Dフードプリンターによって、栄養面、機能面、嗜し好こう面が反映された個別化食が生み出される可能性がある。しかし、フードテックの今後の発展や社会実装には、科学と技術の融合や人の心理、思想、文化、価値観への配慮が必要であり、それらがうまく解決されることが必要である。
石川 伸一
診療研究
心不全治療の新たな展開(5)重症心不全に対する補助人工心臓
補助人工心臓は重症心不全に対する最終的な治療である。以前は体外設置型であったが、現在では植込型が一般的となり、心臓移植までの橋渡し治療としてだけでなく、永久的な治療としても確立した治療法である。今回、補助人工心臓治療の歴史、種類、適応、現状、そして今後の展望などについて報告する。
文化
「痛み」との闘い 第3回 局所麻酔
体の一部に限局した痛みであっても、病む者にとってはつらい。江戸時代の日本にも歯痛に耐えられず切腹した武士がいた。局所の無痛化であれば、当初は事故の多かった全身麻酔は避けたい。そこで局所麻酔の歴史を訪ねてみよう。
笠原 浩