月刊保団連2023年8月号

「道」

権力者に人命を掌握させないために
戦争につながる人権弾圧の経緯に学ぶこと

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奈倉 有里

特集「「新しい戦前」に向かっているのか」

「新しい戦前」に向かっているのか

有名タレントの「新しい戦前」発言を契機に、戦前と似たような空気が醸成されつつあることが大きな話題になり、多くの識者からも強い懸念が示された。このような中で、政府は安保3文書に敵基地攻撃能力を明記し、5年間で43兆円に及ぶ防衛費の大幅増額を決定した。これは専守防衛を基調とする戦後防衛政策の大転換を意味する。岸田首相は、憲法9条の下での「敵基地攻撃」や、防衛費の大幅増額に対する根本的な疑問に正面から応えることなく、沖縄、奄美などの南西諸島にミサイルを配備し、「戦争準備」を着々と進めている。特集では、日本が戦争に突き進んだ歴史に照らし、戦争を起こさないためには何が必要かを考えるとともに、外交的努力で紛争解決を目指すASEAN諸国の現状にも学びながら、専守防衛を堅持する日本外交政策を模索する。

日本近代史における軍備拡張と、その帰結
戦争に直結する危険な道

日本近代史(戦前)においては、3回の顕著な軍備拡張の時期がある。その事例で見る限り、軍事同盟下の急激な軍備拡張の2回は、戦争に帰結している。それは、同盟相手である軍事大国の戦略に利用されるか、振り回された結果でもあった。また、1930年代半ば以降の事例でも分かるように、大規模な軍事費の投入を伴う継続的な軍備拡張は、兵器の量だけではない。質的な転換をもたらし、既成戦略を追い越した兵器体系を生み出し、戦争に直結するような極めて危険な新戦略をも生み出すのである。

山田 朗

「安保3文書」後の日米同盟
多様な危機を捉え 国民のための安全保障を

2022年末、防衛費増額が決定され、中国の脅威に対抗するための「日米の軍事一体化」の必要が強調されている。しかしここで想定されているより、米国の国内外の動きは多様だ。昨今米国では、進歩派議員たちが国防費の肥大化によって国民生活や福利が犠牲にされてきたとの声を強めており、中国に対しても、米国は対話を模索し続けるアプローチをとってきた。日本もこうした米国の姿を多面的に捉え、強硬論一辺倒ではない対中政策、もっと市民を中心に据えた安全保障を模索していく必要がある。

三牧 聖子

「台湾有事」真のリスクと戦争回避の道
──ASEANに学ぶ「外交力」

実際に台湾有事が起きれば、日本は米軍の出撃・兵站たん拠点となり、戦争に巻き込まれる可能性が高い。だから、日本を戦場にしないためにも、台湾有事は絶対に起こしてはならない。日本政府は軍備強化によって中国の台湾侵攻を抑止すると言うが、台湾有事の真のリスクを踏まえれば、それは逆効果でかえって戦争の危険を高めかねない。日本がやるべきなのは、ASEANが実践している対話と協力によって緊張緩和を図る戦争予防外交である。

布施 祐仁

沖縄から見えてくるもの
──台湾有事と南西諸島の自衛隊配備

中国を仮想敵として、南西諸島で自衛隊の増強が続く。基地新設が相次ぎ、敵基地攻撃能力を持つミサイルの配備も確実視される。一方で、住民を守る対策は貧弱だ。島々からの避難は困難を極める。シェルターを十分に建設できる見通しもなく、かえって中国を刺激する恐れがある。沖縄県民にとって宿願だった米軍基地の縮小が進まないまま、新たに自衛隊の負担が加わり、住民の懸念は深まる。政府は反対の民意を強権で押しつぶしてきたが、沖縄戦の再現を許さないためにも声を上げる必要がある。

阿部 岳

解釈変更で平和主義を捨ててよいのか
──武器輸出問題を例に

2022年の安保3文書は、ここ10年の安保政策の戦略レベルへの転換を反映するものであった。内閣限りの意思決定により、本来政治が従うべき〈法〉の意味内容が変えられてきた。本稿では、武器輸出政策を例にとりながら、憲法のうたう平和主義の意味を具体化した総体こそが、〈法〉の内実であることを論じる。安保政策は、軍事を優先させて〈法〉による規律を免れたいという衝動が働きやすい領域であり、日本の過去の歴史に照らすなら、厳に統制への努力がなされなければならない。

青井 未帆

診療研究

新型コロナウイルス感染 罹患後症状の現状と診療の課題 第1回 症状の全体像と当院の取り組み

新型コロナウイルス感染症は感染症法で5類となったものの、その罹患後症状で苦しむ患者は多い。定義は感染後3カ月以内に発症し、少なくとも2カ月症状が持続するもので、倦怠感、呼吸苦、認知機能障害のほか様々な症状があるが、その要因や治療方法は確立されていない。聖マリアンナ医科大学病院では2021年1月18日より総合診療内科を中心として各診療科、多職種が連携し専門外来を開始した。これまでに集まった知見について3回のシリーズでお伝えする。第1回の前半は罹患後症状の全体像について文献を中心に、後半では当院における外来の現状について述べる。

土田 知也

口腔顔面痛──歯痛・顎関節症と誤認しやすい病気の鑑別法 第6回(最終回) 口腔セネストパチー 〜きわめて奇妙な訴え〜

身体の様々な部位の異常感を奇妙な表現で訴える症例を、一般にセネストパチー(cenesthopathy)と呼ぶ。歯科を受診する患者の多くに見られるのは、口腔内の異常感を単一症状的に訴える狭義のセネストパチーである。中高年に多い口腔セネストパチーには、統合失調症圏またはうつ病圏の病態に加え、加齢に伴う脳器質的変化が体感異常に関与している可能性がある。セネストパチーは従来より難治と考えられてきたが、その半数は治療で改善するという報告もある。治療の第一選択として向精神薬療法を用いること、また治療薬としては、抗精神病薬のみではなく、抗うつ薬も選択肢に入れることを検討すべきであろう。

井川 雅子

文化

星と人類の歩み 天文学の30年─刷新される宇宙観 第6回(最終回)多様な物質世界の起源(2)

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青木 和光

経営

【経営・税務誌上相談】事業用車両を下取りに出した場合の税務上の処理

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益子 良一

【雇用問題】看護学生に学費等を貸し付ける場合、何を注意するべきか?

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曽我 浩

【患者トラブル相談室】時には患者対応を振り返る必要も

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尾内 康彦