月刊保団連2023年9月号

「道」

存続の危機に直面するローカル線の未来 他の交通手段との競合、人口減少など

記事PDF

川辺 謙一

特集「炎上するマイナ保険証 現場おきざりのままでいいのか?」

炎上するマイナ保険証 現場おきざりのままでいいのか?

政府は、医療の質向上・医療DX化の基盤整備として2023年4月から医療機関にオンライン資格確認を義務化するとともに、2024年秋に現行の健康保険証を廃止し、マイナ保険証へ一本化する方針を進めている。急速な「オンライン化」は、医療機関の混乱・不安を招くばかりか、サイバーセキュリティ対策など新たな責務と経済的負担が必要となり、医療機関の選別・淘汰を招き地域医療崩壊に繋がる。政府が描く医療DXにより社会保障はどう変わるか、医療情報の管理や共有のあり方、介護・高齢者施設の現状と課題など誰一人取り残さず、質の高い医療を実現するための方策を模索する。

マイナトラブルは止まらない

内容病気やケガのときにいつでもどこでも安心して医療が受けられるために健康保険証は不可欠である。健康保険証の券面には被保険者情報が記載されているため、患者が窓口で提示するだけで医療が受けられる。被保険者情報を活用し、医療機関もスムーズに保険請求できる。被保険者証を発行・交付する義務がなくなると国民皆保険制度に大きな瑕疵が生じる。トラブル続きにもかかわらずシステムを停止せずに、自治体や保険組合に単に「総点検」だけを強いる国の姿勢に国民の不信や不安が高まるのは当然である。医療・介護現場の混乱を回避する唯一の方法が健康保険証を残すことである。

竹田 智雄

国民皆保険を突き崩すマイナ保険証の落とし穴

「マイナンバーカード」のトラブルが止まらない。ついに、他人の口座に公金が振り込まれるという、とんでもない事態まで起きた。ここまで来ると、他人の「マイナ保険証」がひも付けられることで医療ミスが起きるといった、絶対にあってはならない事故が起きてもおかしくない状況だ。今、国が強引に進めている「マイナ保険証の実質義務化」と「健康保険証の廃止」は、戦後約60年の間、志の高い日本の多くの医師が血のにじむような思いで築き上げてきた、「国民皆保険」という世界に誇る日
本の制度を、根底から覆すような行為である。

荻原 博子

健康保険証廃止による介護・高齢者施設への影響

高齢者施設入居者や在宅の要介護高齢者は、行政手続き等に関する意思表示や手続きが困難という人が多数である。マイナカードと保険証の一本化、健康保険証廃止は、最も医療を必要とする要介護高齢者の医療アクセスの障害となり、権利侵害も危惧される。また政府は、高齢者施設・ケアマネジャーに申請・代理交付支援や管理を要請しているが、マイナ保険証の持つ性格や人手不足の現状から、施設や事業所からは不安や不満が噴出している。健康保険証廃止は撤回すべきである。

井上 ひろみ

マイナ保険証と医療情報の利活用の問題点

現在、政府がマイナ保険証の実質「義務化」に突き進んでいるのは、オンライン資格確認システムを基礎とした医療データの利活用が目的である。しかし、これは個人の医療情報に関する同意を通じたコントロール権を軽視するものである。EUのGDPRでは、プライバシーを基本権とした上、「同意権」の内容やこの権利を補完する制度等を具体的に規定している。GDPRを参考に、マイナ保険証の利用自体と医療データの利活用の問題点について考える。

水永 誠二

誰のための医療DXか

政府は「最先端のデジタル国家になる」ことを掲げ、国民の個人情報のデータ連携と、その利活用を大規模かつ効果的に行うデジタル化政策を推進している。その中核に健康・医療・介護分野を対象とした医療DXが位置付けられ、政府の医療DX推進本部で工程表が決定された。マイナ保険証とマイナポータル利用を前提とした医療DXの特徴点、医療のあり方や社会保障をどのように変えようとしているのか、医療情報の利活用への社会的規制の課題等について検討する。

寺尾 正之

保険証廃止で、トラブルはどれだけ増加するのか

多くの国民がマイナ保険証利用に伴うトラブルに危惧や不安を募らせており、世論調査で7割の国民が健康保険証廃止方針の延期・撤回を求めているが、政府・与党はかたくなに「廃止方針」を変更していない。このまま保険証が廃止されたら、どれだけのトラブルが発生するのか。保団連が実施したトラブル調査の結果を基に、健康保険証が廃止された場合、各トラブル件数はどれくらい増加するかシミュレーションを行った。

全国保険医団体連合会

診療研究

新型コロナウイルス感染罹患後症状の現状と診療の課題 第2回

前回は新型コロナウイルス感染罹患後症状の全体像についてお伝えした。第2回は症状ごとの具体的な対応についてお伝えする。原則として罹患後症状は除外診断であるため、その症状を引き起こす鑑別疾患をいくつか挙げて評価をすることが重要である。感染後に新たな疾患が発症するケースのほか、元々あった疾患が悪化するケースも多くある。感染後に生じた疾患は広い意味では罹患後症状に入るかもしれないが、診断をつけることで早期症状の緩和に結び付くことがある。とはいえ、罹患後症状の病態、治療はエビデンスが確立されたものはまだない。本稿の内容はあくまで当院の専門外来で行っていることであるので、各施設でアレンジしていただければと思う。

土田 知也

文化

牧野富太郎が植物に向けた精緻な観察眼

精緻で美しい植物図を描いたことで知られる牧野富太郎(1862-1957)は、子供の頃から植物に親しみ日本各地で多くの植物と出会った。94年の生涯を植物研究に捧げた牧野は日本の植物分類学に大きな足跡を残した。その出発点として、牧野の最初期と見られるツルムラサキの図、および牧野が20歳になるかならない頃に著した『植学備孜』に載るトリカブトとロウバイの図について、牧野がどのような図を描いたのか、花の構造のどのようなところに興味を持ったのかを明らかにする。

田中 純子

経営

【経営・税務誌上相談】インボイス制度開始後の健診に係る消費税の取り扱い

記事PDF

益子 良一

【雇用問題】メンタル疾患で就労できないスタッフへの対応

記事PDF

曽我 浩

【患者トラブル相談室】盗撮が疑われる患者にどう対応する?

記事PDF

尾内 康彦