月刊保団連2023年10月号

「道」

だがし屋のおっちゃん、実は女なんやで ──ジェンダーをテーマにした絵本

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多屋 光孫

2023年は関東大震災から100年に当たる。関東大震災は南関東を中心に甚大な被害をもたらしたが、死者・行方不明者約10万5000人のうち東京府(当時)は約7万人に上った。震源から離れた東京で最も多い死者が出た背景には、人口の密集が急激に進んだことや都市計画上の問題が指摘されている。現在、都内への人口集中はさらに進み、高層ビルも大幅に増加。国民生活全般でデジタル技術への依存も大きくなっている。地震で首都機能がまひすれば、その影響は日本全体に波及する。

2040年までに南海トラフ巨大地震の発生がほぼ確実視され、首都直下地震も懸念される中で、私たちは関東大震災の歴史から何を学ぶべきなのか。過去を振り返るとともに、現代社会で予想され得る危機を考える。

関東大震災の教訓を忘れないために 目先の利益優先で損なわれる安全と景観

関東大震災で一番大きな被害を受けたのは、震源域から離れた東京だった。その壊滅的な被害の大半は二次災害の火災によってもたらされたものであり、明治政府の都市計画に問題があったといわざるを得ない。そして、それを教訓として、震災後の帝都復興事業による街づくりは公共の利益を重視して進められた。しかし、並々ならぬ決意によって整備された復興遺産は、時代の経過とともに目先の利益を優先した再開発などによって食いつぶされていくことになる。発災から100年を迎えた今、私たちは何を学ぶべきなのか。武村雅之氏に聞いた(インタビュー実施日:2023年8月16日 聞き手・構成:黒澤 真)。

武村 雅之

後藤新平の復興計画に見る公共の思想 その壮大な構想力と高い先見性

関東大震災からの復興は、紙と木でできた家々が集まる東京を「燃えない」「災害に強い」都市に生まれ変わらせる契機となった。その復興事業を壮大な構想力と、高い先見性でけん引した人物こそ、医師から政治家に転じた後藤新平。後藤の復興計画は、予算の巨額さから「大風呂敷」と揶揄され、抵抗勢力に減縮されたが、それでもなお大都市・東京の基盤を造った。地主の利権に切り込み、安全な都市に改造した後藤の「公共の思想」に焦点を当て、緊迫した経緯をクローズアップしよう。

山岡 淳一郎

関東大震災の被災者支援はどのように行われたのか 医療救護、義捐金、公設バラックなど

関東大震災は、山本権兵衛が内閣総理大臣に指名されたばかりで、組閣が完了していない時に起きた。医療救護の支援には警視庁のほか、日本赤十字社などの医療団体が当たり、各地から医師と看護師がセットで被災地に送り込まれた。家族や知人の消息を尋ねる人々の支援では学生ボランティアが活躍。地方では、各地の住民たちが被災地から逃れてくる避難民への支援に当たった。一方、被災者が全国各地に散らばっている中で、その実態を把握するために国勢調査レベルの調査も行われた。人々が戻らないことには復興が望めないため、被災地へ戻るかどうかを調査したのである。

北原 糸子

朝鮮人虐殺を描いた絵画は私たちに何を伝えるのか 関東大震災から100年の時を超えて

関東大震災から100年を迎えたが、この震災時に起こった「朝鮮人虐殺事件」については、まだ分からないことが多い。どこでどのように虐殺されたのか、犠牲者の名前も人数も、埋葬地も不明のままである。事件としてまともに捜査もされず、裁判もあいまいで、加害者の追及は中途半端に終わった。事件発生の地域でも、タブー視され、公は隠蔽に動いた。そうした中で虐殺を描いた画家たちがいたことが、最近分かってきた。本稿では「虐殺絵」を紹介しながら読み解いてみたい。

新井 勝紘

南海トラフ巨大地震と富士山噴火の連動

今から約10年後の2035年±5年に予想される南海トラフ巨大地震は、東日本大震災の10倍の経済被害をもたらし、全人口の半数6800万人が被災する可能性がある。富士山は現在「噴火スタンバイ状態」にあり、南海トラフ巨大地震によって噴火が誘発される可能性が高い。また首都直下地震は東日本大震災の5倍の経済被害をもたらす。本稿では、最先端の地球科学が示す災害予測を開示し、何を準備すべきかを分かりやすく解説する。

鎌田 浩毅

次に来る震災に私たちはどう備えればいいのか 現代社会における地震災害様相と対策

プレート運動で作られた日本列島では様々な災害が発生する。歴史をひもとくと、災禍の重なりによって、歴史が変化してきたことに気付く。しかし、近年、科学技術の進展や価値観の変化により、人々が大都市に集まり、危険な場所にまちを広げ、経済性や効率を重視する社会をつくってきた。関東地震から100年を迎え、大地震が切迫していることが指摘される。過去の災禍に学び現代を点検することで、今後の大災害に備え、未来世代に迷惑をかけない日本社会を築いていきたい。

福和 伸夫

診療研究

新型コロナウイルス感染罹患後症状の現状と診療の課題 第3回

連載第1回は新型コロナウイルス感染罹患後症状の全体像について、第2回は症状ごとの具体的な対応についてお伝えした。最終回は、実際の症例を提示してその対応についての解説を行う。

土田 知也

歯を失うことは孤立への第一歩 ~高齢者における現在歯数と閉じこもり、社会的孤立との関連~

独居高齢者割合や生涯未婚率の増加など、今後高齢者の閉じこもりや社会的孤立がより深刻化することが予想されている。口腔の健康は食事や嚥下運動のみならず、他者との交流においても恥じらいを感じないような審美的な面、会話時の発音などの機能的な面において重要なファクターである。本稿では現在歯数と義歯の利用状況が閉じこもりや社会的孤立に影響するかどうか検証を行った研究を紹介する。

小山 史穂子

文化

牧野富太郎が植物に向けた精緻な観察眼 第2回

植物分類学者の牧野富太郎(1862-1957)が一生をかけて目指したのは、日本の植物誌の完成であった。今回は、その出版物として第1作目である『日本植物志図篇』に収載される植物図を話題とした。同書に多く取り上げられたラン科の植物に着目して、牧野がそれらの特徴をどう把握して図解したのかを、具体例としてカシノキランやアケボノシュスランの図を掲載し検討した。前者については牧野が後年改めて描いた図、および後者については西洋で編纂されたラン図譜との比較をそれぞれ試みた。また、牧野が植物写生画の名手として絶賛するイギリスの植物画家フィッチを紹介した。

田中 純子

経営

【経営・税務誌上相談】税務調査について

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益子 良一

【雇用問題】退職直前の有給休暇の請求を断ることはできるか

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曽我 浩

【患者トラブル相談室】虚言癖が疑われる職員への対応

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尾内 康彦