月刊保団連2023年11月号

「道」

無知・無関心は犯罪の温床である 「闇バイト」の若者たちとどう向き合うか

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廣末 登

特集「気候危機に立ち向かうために」

産業革命が始まる18世紀後半から、地球の平均気温が約1℃上昇しているという。温暖化により海水温が上昇し、北極圏や南極圏の氷が解けて海面も上昇。それに伴い気候変動が起こり、近年、日本でも豪雨災害や猛暑などに見舞われることも珍しくなくなった。こうした気候危機を回避するため、産業革命以降の気温上昇を1.5℃に抑えることが目標とされ、各国で温室効果ガス排出量を削減する目標が立てられている。しかし、日本は再生可能エネルギーの普及が遅れ、原発依存の継続など、世界の潮流から外れた状況も見られる。電気料金が高騰する中で、経済的合理性を担保しつつ、効果的な温暖化対策を進めるために、どのようなエネルギーを選択するべきなのか。今、待ったなしの状況になりつつある中で、気候危機に対する私たちの姿勢が問われている。

ガラパゴス化する日本のエネルギー政策
世界的な危機感の高まりの中で

「地球沸騰化」の時代になり、世界中で若い人たちが大きな声を上げている。温暖化対策のためには、化石燃料の利用を減らすしかない。しかし、既得権益を持つ人々は、懐疑論や対策不要論を流布することで邪魔している。日本でも、政府がGX(グリーントランスフォーメーション)という名目の下、今の原発と化石燃料による経済不合理的な発電システムを維持しようとしており、このままでは、産業政策という意味でも、今後10年間は「失われた10年」になる可能性が高い。

明日香 壽川

なぜ、日本の再エネ普及は遅れているのか?

世界における再生可能エネルギーの導入量は増え続けており、2022年には史上最高を記録した。一方、日本では民主党政権下でFITが施行されるなど、再エネ普及のための法整備が進められたが、自民党政権による原発優先の政策への転換などを背景に、2015年をピークに年間の新規導入量が低下傾向に陥っている。筆者は最近の再エネ普及動向等についてはこれまでも論じてきたが1)、本稿では、最新の知見とデータの分析に基づいて世界と日本の再エネ普及を比較し、日本の立ち遅れの要因を明らかにした上で、再エネ100%社会を実現する上での市民・地域主導の重要性について論じる。

和田 武

気候正義とは何か
エネルギーの「公正な移行」を目指して

気候変動の原因となっている二酸化炭素などの温室効果ガスを大量に排出してきたのは先進国や富裕層なのに、それほど排出してこなかった途上国や貧困層が真っ先にその被害をこうむっていることが指摘されている。こうした気候変動の背景にある不公平を正していこうという意味で「気候正義」という言葉がしばしば使われるが、多様な意味や側面を持つ言葉でもある。本稿では、気候正義について、温室効果ガス排出責任や途上国の債務問題、化石燃料といった点から見ていく。

深草 亜悠美

原発回帰に経済的合理性はあるのか
破綻した日本の脱炭素政策

気候変動の原因となっている二酸化炭素などの温室効果ガスを大量に排出してきたのは先進国や富裕層なのに、それほど排出してこなかった途上国や貧困層が真っ先にその被害をこうむっていることが指摘されている。こうした気候変動の背景にある不公平を正していこうという意味で「気候正義」という言葉がしばしば使われるが、多様な意味や側面を持つ言葉でもある。本稿では、気候正義について、温室効果ガス排出責任や途上国の債務問題、化石燃料といった点から見ていく。

松久保 肇

日本政府が進めるGXは気候危機に対応できるのか

現在の日本の気候変動対策やエネルギー政策は、気候危機を乗り越えるために十分なものといえるだろうか。政府は、2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにするというカーボンニュートラルを掲げ、「GX」で脱炭素と経済成長の両立を目指すとしているが、その内容は、気候変動対策に逆行し、長期にわたってCO2を排出し続ける危うさを持つものだ。GXの柱とされるアンモニア燃料、CCSとは何か、CO2の最大の排出源といわれる石炭火力は今どうなっているのか、明らかにしていきたい。

桃井 貴子

診療研究

[シリーズ]認知症診療のパラダイムシフトを迎えて

第1回 認知症基本法が目指すもの

2023年6月14日に認知症基本法が可決・成立した。その基本理念は、認知症の人の尊厳を保持し、国民全体が支え合いながら認知症の人が安心して暮らす「共生」の社会形成実現を推進することにある。9月25日には認知症の新薬も承認され、2023年は日本における認知症診療がパラダイムシフトを迎えた年だと言ってよいだろう。われわれ医療者は本基本法の理念をよく理解し、認知症の人やその家族にとっての明るい未来を形成するよう努めなければならない。

藥師寺 祐介

歯科医師が知っておきたい摂食嚥下の基礎知識

第1回 運動神経と摂食嚥下

高齢者人口の増加に伴い、歯科医師も看護師や介護福祉士、ケアマネジャーなどに摂食嚥下の指導をする機会が今後増えていくと予想されます。そのような際にしっかりと理論立てて説明できるようになるには、「基礎」を知る必要があります。「基礎」と聞くと、つまらなさそうなイメージがあると思いますが、学問的ないわゆる「基礎」ではなく、本稿で解説するのは臨床に直結する「基礎」です。他の文献ではとても複雑に書かれていることでも、できる限り噛み砕いて分かりやすく説明するので、ご一読いただけると幸いです。

市村 和大

文化

牧野富太郎が植物に向けた精緻な観察眼

日本の植物学は諸外国の影響を受けて成立したため専門用語が様々となり、牧野富太郎は統一の必要性を痛感して、用語を講究する植物記載学の樹立を主張した。記載学では、植物の特徴を表現するには文章の記述だけではなく、図解も重視された。植物の全形図や各器官を詳細に描いた解剖図には、理解を助ける役割がある。牧野が描画した植物図は精緻な美しさに魅力があるが、芸術的な絵画とは異なる視点で描かれている。今回は、植物記載学の紹介と牧野の傑作『大日本植物志』を話題として、同書に掲載されたヒガンバナを一例として牧野の植物図に迫る。

田中 純子

経営

【経営・税務誌上相談】税務調査におけるカルテの扱い

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益子 良一

【雇用問題】老齢基礎年金は何歳から受給するのが得か

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曽我 浩

【患者トラブル相談室】「脳梗塞の責任を取れ」と言われたら

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尾内 康彦