特集「地域から病院が消える─住民置き去りの統廃合計画─」
政府は「地域医療構想」の実現に向け、2025年に必要となる病床数を高度急性期、急性期、回復期、慢性期ごとに推計、高度急性期・急性期病床の20万床削減計画を打ち出すとともに、公立・公的病院の統廃合、病床削減を進めてきた。全国で病院を守る運動が広がるさなか、コロナパンデミックにより改革の重点を経営強化と病院間の役割分担・連携に変更し、公立・公的病院統廃合をトーンダウンさせるに至ったが、いまだ地域医療構想そのものは堅持され、400病院超の統廃合計画リストや20万床削減計画は撤回されていない。さらには、2026年度以降を見据えた新たな地域医療構想の策定に向け、民間を含む全ての病院機能の再検証を2023年度中に行うよう求めている。地域に必要な病床および医療機能の確保ができなくなれば、連携する医科・歯科診療所にとって致命的な打撃をもたらしかねない。病院・病床の統廃合計画の現状と地域での取り組みの課題を明らかにする。
病院・病床統廃合計画は地域の実情に沿えるのか
2025年の実現を目指して、将来の医療機能ごとの医療需要に病床数を合わせることを目的とした地域医療構想が、2026年以降は新たな地域医療構想として再出発し、次の目標は2040年が想定される。需要が増える在宅医療・介護の充実が大きなテーマになるとともに、新興感染症の感染拡大がいつ起きても対応し得るように、公立・公的・民間の各医療機関が連携し、地域の実情を踏まえた「余力と備え」のある医療体制を整えておくことが求められる。
寺尾 正之
独法化で深刻化する看護師不足
医療現場の疲弊で地域医療が崩壊
独法化された都立病院では、一部で看護師不足から病床の利用を制限する事態が起きている。独法化で都立病院に統合された旧公社病院では、ベテラン看護師を層として育成するのに失敗したからだ。その原因は入職後8年で昇給を止め、退職を促し、その穴を新人看護師で埋めて人件費を圧縮する運営方針が破綻したことにある。賃金を切り下げる独法化には持続可能性がなく、安全性と継続性が何より求められる自治体病院の運営に、地方独立行政法人という運営形態は不適切である。
大利 英昭
大阪の病院統廃合を巡る混乱とその行方
住吉市民病院の事例を中心に
本稿では、大阪府における公立病院の統廃合等の動きを紹介した上で、統廃合の事例として大阪市南西部にあった住吉市民病院の閉院の経過を取り上げます。特異な経過をたどった住吉市民病院の閉院は、大阪府における公立病院の統廃合について最も問題点が浮き彫りになった事例と言えます。これらの事例からは、病院統廃合計画を考える上で重要な視点が見えてきます。
大谷 学
病院歯科の充実を
病院歯科は長年の低診療報酬により不採算部門とされ、その数は減少傾向にある。しかし、高齢化や疾病構造の多様化により、口腔外科診療以外にも全身管理を必要とする有病者、障害者、高齢者の歯科治療、医科入院患者の口腔機能管理および退院後の歯科診療所への紹介など、多くの機能が求められる。良質な歯科医療を提供するためには、病診連携の要である病院歯科の存在が不可欠であり、その役割に見合った再評価と不採算とならないような点数設定が必要である。
足立 了平
地域医療を守る住民運動は住民自治・民主主義と平和につながる
政府は、コロナ禍が医療崩壊を引き起こしたにもかかわらず、新自由主義政策に基づき病床を削減する「地域医療構想」を、デジタル化を梃てこに推進している。その真の目的は医療を政治利用した、戦争のできる中央集権専制国家づくりである。しかし、病院という社会的共通資本を守る草の根の住民運動は、中央集権化にブレーキをかけ、活動を通じて政治意識を高め、住民自治、民主主義を醸成し、平和につなげることができる。
黒木 秀尚
診療研究
[シリーズ]認知症診療のパラダイムシフトを迎えて
第4回アルツハイマ ー病のバイオマーカー
アルツハイマー病のバイオマーカーは、診断精度を高めるだけでなく、発症予測にも有用とされている。これまでのバイオマーカー研究によって脳脊髄液中のアミロイドβ蛋白(Aβ)42の低下は認知症発症の25年前、アミロイドPETによるAβ沈着は15年前から始まり、その後に脳糖代謝低下、MRIでの脳萎縮が生じることが明らかとなった。Aβは発症前から沈着するため、複数の疾患修飾薬の臨床試験が進められ、ついに日本においても抗Aβプロトフィブリル抗体(レカネマブ)が保険適応承認された。今後の認知症診療では、疾患修飾薬の効果が期待できる症例の識別のため、画像および脳脊髄液バイオマーカーの重要性が一層高まると予想される。
木村 成志
歯科医師が知っておきたい摂食嚥下の基礎知識
第4回(最終回) 脳卒中による嚥下障害
嚥下障害の要因として多い脳卒中ですが、嚥下障害の視点から見ると3つのタイプに分けることができます。最終回となる今回は、今までの回で解説した知識を活用し、それらを読み解いていこうと思います。これが理解できると、既往歴の情報や患者の症状から嚥下障害の状態を、ある程度推測できるようになります。
市村 和大
文化
木版に刻まれたメッセージ
第2回《野に叫ぶ人々》がもたらした衝撃
故郷の小山市に戻って、日本美術会の美術家仲間たちと活動を共にしていく中で、小口一郎は田中正造と足尾銅山の鉱毒事件を知る。そして、取材と創作に長い歳月をかけ、鉱毒事件の連作版画の第1作目となる《野に叫ぶ人々》を1969年に発表した。すると、その反響は大きく、すぐに画集の刊行や映画製作にもつながっていった。それだけでなく、被害農民の一部が北海道開拓移民として明治期に佐呂間に渡った歴史があったことも知り、第2作の制作へとつながっていく。
木村 理恵子