申請によらず資格確認書交付は移行期だけ?

申請によらず資格確認書交付は移行期だけか

 

「保険証廃止」の延期はせず

岸田首相は2024年秋の保険証廃止について延期はせず、23年秋の総点検結果によって「必要なら見直す」とした。国民の「不安払拭」と言いながら、国民の圧倒的多数の「健康保険証の廃止の延期・撤回」の声をまったく省みない姿勢であった。

資格確認書の取扱い見直しでの「法改正」せず、「申請主義」原則は変わらない

相次ぐトラブルに対する対応として、資格確認書の取扱いを見直す方針を示した。内容は、①当分の間、マイナ保険証を保有していない方全てに申請によらず交付、②マイナ保険証を保有していても申請により資格確認書が交付された要配慮者について、継続的に必要と見込まれる場合には、更新時に申請によらず交付、③一度登録した後も、マイナ保険証の利用登録を解除可能とする、④有効期限を5年以内で保険者が設定(更新あり)、⑤様式は現行と同じカード型、紙またはプラスチックとする、の5点。以上の内容は法改正無しで見直すことが可能と説明した。

「申請主義」の原則は変わらず

首相の記者会見を受けて、マイナ保険証を持たない人に「一律交付」の方針転換と報道されたが、法改正を行わないことから、あくまで附則15条の「当分の間、保険者が必要と認めるときは申請によらず、職権交付を可能とする」による対応を行う。記者会見後のブリーフィングでも厚労省は、「法律の附則において、職権で交付が可能、提供することができるということになっている。その主語は保険者で、『保険者が必要があると認めるときは』となっているので最終的には保険者判断ということになる」と説明した。国が責任をもって「一律交付」を担保するわけではなく、保険者の判断に委ねる姿勢である。

マイナ保険証と資格確認書は併用できない トラブル対応に、現行の健康保険証の存続不可欠

現在、マイナ保険証によるオンライン資格確認でトラブルが生じ、被保険者情報が確認できない事態が多発する中で、健康保険証の券面を確認することによって「無保険扱い」を回避している。資格確認書は原則としてマイナ保険証を持たない人を交付対象としているため、マイナ保険証と併用することができず、オンライン資格確認ができなかった場合「無保険扱い」を回避する手段を失うことになる。資格確認書の取扱い見直しだけでは、現在医療現場で起きているマイナ保険証によるトラブルは解決しない。トラブルの全容解明、再発防止が不確実な以上、現行の健康保険証の廃止はあり得ない。

マイナ保険証を持たない人の把握で新たなタイムラグ問題懸念

「マイナ保険証を保有していない方全てに申請によらず交付」するためには、保険者は、随時マイナ保険証を持たない人を把握する必要が生じる。マイナンバーカードの返納や、保険証利用登録の解除を可能にすることで、マイナ保険証を持たない人は毎日新規に発生し、対象者は変動することになる。それをもれなく把握し、マイナ保険証を持たない人すべてに本当に申請によらず資格確認書を交付することが可能なのか。新たなタイムラグ問題となり、資格確認書が届かないことで「無保険扱い」となる人が多数生じる可能性が危惧される。

 

保険者はマイナ保険証紐づけ情報は持っていない

※現時点では、健康保険証利用の申込み(初回登録)状況を定期的(3カ月に1回)に中間サーバーから通知している。

令和3年から3か月に一回初回紐付け情報を中間サーバー経由で保険者に通知してるが、あくまでマイカ販促用で各保険者単位で提供されているが初回登録が累積した情報でしかない。
J-LISとのデータやり取りはないため、マイナカード失効(電子証明書含む)情報は反映されない。つまり、現時点で各保険者にリアルタイムでマイナ保険証の取得情報を提供することは困難である。
さらに、オンライン資格確認システムに登録されている情報はあくまで被保険者単位で紐付け有無に過ぎない。中間サーバー上に有効被保険者が複数存在する問題がある。

支払基金が機械的に所属保険者単位のマイナ保険証登録情報を各保険者に通知し、各保険者がマイナ保険証を所持していない方すべての資格確認書した場合、発行が二重になる恐れがある。

また、中間サーバーへの登録のタイムラグが常時生じているため、有効なのにマイナ保険証無効という状況が資格確認書でも再現される。
保険者がJ-LIS照会で直接、マイナ保険証情報を取得できる仕組みないので、申請があった際の確認することすらできない。データもらっても保険者がランダムに申請される資格確認書のオーダーに対応する実務対応は不可能に近い。見た目のコスト増以上に体制整備の人件費は膨大です。

「事務負担権限」も疑問 

マイナ保険証のメリットとして保険証発行等の事務負担軽減が上げられているが、マイナンバーカードの発行実務、5年ごとの更新、情報の紐付け作業、さらに今回の資格確認書の発行・更新実務など、自治体、保険者の事務負担が本当に軽減されるのか、甚だ疑問である。加えて止まらないトラブルへの対応、「総点検」作業等で自治体や保険者の事務負担は増大しており、本末転倒である。

保険証を残せばよいだけ

資格確認書の取扱いを改善することは、現行の健康保険証に限りなく近づけることに他ならない。であれば、すでに社会に定着し、安定的に運用されている現行の健康保険証を存続させれば良いはずである。

病気やケガの時にいつでもどこでも安心して医療が受けられるために健康保険証は不可欠である。健康保険証の券面には被保険者情報が記載されているため、患者さんが窓口で提示するだけで医療が受けられる。被保険者情報を活用し、医療機関もスムーズに保険請求できる。

資格確認書の対象者への申請に寄らない交付と、一見、申請主義を修正したかに見えるが、当分の間の対応であり、かつ、対象者がマイナ保険証を持たない人に限定されている。全被保険者に保険証を交付する現行の健康保険証の運用からは大きく後退する。被保険者証を発行・交付する義務がなくなると国民皆保険制度に大きな瑕疵が生じる。改めて、来年秋の現行の健康保険証の廃止を撤回するよう強く求める。