【シリーズ・薬の保険外し⑪】薬代が4.5倍に 厚労省が具体策を提案

 12月7日の医療保険部会で厚労省は長期収載品の保険給付外しの具体案を提案します。窓口負担が1割の患者だと薬代の患者負担が現行の4.5倍になる試算が示されています。大幅な負担増により患者の健康影響に重大な支障が出かねません。国会審議やパブリックコメントなどで国民の意見を聞くこともなく、厚労省審議会の合意のみで年内にも方針を決定しようとしています。

処方されるまで支払金額に気付かない設計 健康影響などの責任所在も議論なし

保険収載された医薬品を保険給付から外す制度の導入は、公的医療保険の根幹を破壊するものです。先発品と後発品の薬価差額を保険給付の対象から外し、一部負担金とは別に患者から自費扱いとして徴収することになります。ほとんどの患者・国民は今回の制度の仕組みを開始することを知らされていません。医療を受診し、処方されてはじめて、保険給付外となる金額が判明するとんでもない制度設計です。医療現場の混乱は必至で、制度設計上も重大な瑕疵を残します。

医師が患者の個別性を踏まえて選択した処方薬は長期収載品と後発医薬品の種類にかかわらず全額保険給付されるべきです。厚労省は、「一般名」で処方された場合で患者が長期収載品を選択した形式上の「患者選択」で、長期収載品と後発医薬品の差額を保険給付から外そうとしています。

長期収載品と後発医薬品は同等としていますが、有効成分が同じでも後発品と先発品は基剤、剤形、添加剤が異なるため、有効成分が患部の同等に作用するかで違いが生じます。先発品と後発品は「完全に同じ」でないことは医薬品部局も認めています。

従って、「一般名処方」という形式的な「患者選択」を基準に基に保険給付の対象外とすることに道理の欠片もありません。

何の情報も持ちえない患者に形式上の「選択」を求め、長期収載品を選ぶと差額を自費として徴収する行為は、健康保険法86条で規定された保険外併用療養費(選定療養)の手続き(価格掲示、説明責任、患者同意)すら満たすことが困難となるものです。事前に保険給付外となる金額を医療機関や薬局で掲示することが前提となるため、複雑怪奇な制度運用になることは容易に想像できます。長期収載品の保険給付外し、事実上の後発品への処方誘導、処方制限そのものです。後発品を選択せざるを得なくなり、健康影響が生じた場合、誰が責任を持つのでしょうか?

参考 【シリーズ・薬の保険外し⑤】ジェネリック置き換えで健康影響も

1割負担の患者負担が最大4.5倍に!

 

厚労省が示したモデルケースだと窓口負担が3割の患者のケース1では、現行負担の1.6倍になります。ケース2だと現行負担の1.9倍になります。窓口負担が1割負担の患者はさらに深刻です。ケース1で現行の3.5倍ケース2で負担が現行の4.5倍に膨らみます。

【窓口負担が3割の患者の場合】

   ケース1(先発500円、後発250円) ※差額250円(500円-250円)の2分の1(125円)を保険から除外

 現行改悪後
後発医薬品250円250円
長期収載品(保険扱い) 500円375円
後発品(250円)+差額の2分の1(500円-250円)÷2
①窓口負担(3割)150円
500円×0.3
112.5円
375円×0.3
②保険外(自費扱い+消費税)0円137.5円
差額の2分の1(250円÷2)に消費税課税(125円×1.1)
③患者負担金額(①窓口負担+②保険外)150円250円

   現行負担:150円  ⇒ 改悪後:250円   負担は1.6倍に

   ケース2(先発500円、後発150円) ※差額350円(500円-150円)の2分の1(175円)を保険から除外

 現行改悪後
後発医薬品150円150円
長期収載品(保険適用) 500円325円
後発品(150円)+差額の2分の1(500円-150円)÷2
①窓口負担(3割)150円
500円×0.3
97.5円
325円×0.3
②保険外(自費扱い+消費税)0円192.5円
差額の2分の1(350÷2)に消費税課税(175×1.1)
③患者負担金額(①窓口負担+②保険外)150円290円

   現行:150円 ⇒ 改悪後:290円   負担は1.9倍に

【窓口負担が1割の患者の場合】

  ケース1(先発500円、後発250円) ※差額250円(500円-250円)の2分の1(125円)を保険から除外

   
 現行改悪後
後発医薬品250円250円
長期収載品(保険適用) 500円375円
後発品(250円)+差額の2分の1(500円-250円)÷2
①窓口負担(1割)50円
500円×0.1
37.5円
375円×0.1
②保険外(自費扱い+消費税)0円137.5円
差額の2分の1(250円÷2)に消費税課税(125円×1.1)
③患者負担金額(①窓口負担+②保険外)50円175円

    現行:50円  ⇒ 改悪後:175円   負担は3.5倍に

  ケース2(先発500円、後発150円) ※差額350円(500円-150円)の2分の1(175円)を保険から除外

   
 現行改悪後
後発医薬品150円150円
長期収載品(保険適用) 500円325円
後発品(150円)+差額の2分の1(500円-150円)÷2
①窓口負担(1割)50円
500円×0.1
32.5円
325円×0.1
②保険外(自費扱い+消費税)0円192.5円
差額の2分の1(350÷2)に消費税課税(175円×1.1)
③患者負担金額(①窓口負担+②保険外)50円225円

   現行:50円  ⇒ 改悪後:225円  負担は4.5倍に

 

厚労省が12月8日医療保険部会に提案予定の資料

 

販売開始後5年、置換率50%を対象に保険外し

厚労省は、後発医薬品が発売されて5 年以上たった薬剤、先発医薬品から後発医薬品に置き換えられた割合が 50 %以上の医薬品を保険給付外しの対象とする考えが提案されてます。(対象成分数:約440)

調剤医療費(電算処理分)の動向の概要~令和4年度版~ によるとほとんどの薬剤が置き換え率50%を超過していますので、全ての種類の薬剤が対象となる可能性があります。同資料では、後発医薬品のシェアは数量ベースでは循環器系が24.3%、中枢神経系が17.5%と特に多くなっています。

使い慣れて効果も試され済みの薬を使い続けたい

医薬品の供給不安、ジェネリック(後発医薬品)が特に不足する中で先発医薬品(長期収載品)を選択せざるを得ない状況も広がっています。患者・国民、医療者が強く願うのは医薬品の安定供給です。「確実に効果が出る薬を処方したい」「使い慣れて効果も試されずみの薬を使い続けたい」こんな医師や患者の願いを踏みにじる薬の保険外しは、薬剤費を削減するあまりかえって患者・国民の命・健康を犠牲にするもので、百害あって一利なしの政策です。保団連は、先発医薬品と後発医薬品の差額を保険給付から外す制度の導入を撤回することを強く求めていきます。