【談話】
国民生活に向き合わない成長戦略と防衛費拡大に終始し
露骨に公的医療の解体を迫る「骨太方針2026」
2026年7月23日
全国保険医団体連合会
政策担当副会長
橋本政宏
高市政権は7月21日、2026年の「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針2026を閣議決定した。「強い経済」、「積極財政」をスローガンに2040年までに17分野への370兆円の官民投資やGDP比3.5%を視野に防衛費拡大に踏み出す一方で、円安・物価高騰の打開策は皆無で、実質賃金増など国民生活改善には背を向けている。社会保障分野は、自民・維新の連立政権合意書に盛り込まれた社会保障改革13項目の具体化の合意(以下、自維社保合意骨子)に基づき、2026年度中に具体的な制度設計を行い順次実行するとした。
「現役世代の保険料負担軽減」を口実に高齢者の医療費窓口負担増など医療・社会保障のさらなる抑制、削減には積極的だ。
1.官民投資拡大で成長を描く 乏しい物価・賃上げ対策
「強い経済」と「財政の持続可能性」を一体的に実現するとし、防衛産業を含む戦略17分野で、2040年度までの累計で官民投資額370兆円超を想定し、「名目3%を上回る経済成長」「GDP1100兆円に迫る経済成長が実現」としたが、足元の異常な円安や物価高騰から、国民生活を守る実効性ある措置は盛り込まれず、成長投資に必要な財源確保も不明瞭である。国債増発に依存するとの懸念からさらなる円安・物価高の引き金ともなりかねない。
高市政権の成長戦略は供給力強化が中心で、円安・物価高で空前の利益や内部留保を積み上げている大企業の優遇税制の見直しや労働分配率を向上させる所得再分配の政策は皆無である。令和7年度年次経済財政報告(内閣府)では、過去30年程度の企業行動の変化について「過去30年間で人件費や国内投資が抑制され、利益は株主配当や企業の手元資金や内部留保が積み増しされた。法人税収も減税により伸び悩んだ」と分析・評価しており、財政審建議も「投資拡大と企業収益や投資の成果が賃金として適切に分配される構造の確立が求められる」と提言している。
最低賃金の引き上げ目標も、石破政権が掲げた2020年代に全国平均で1,500円を目指す」との目標が「2030年前半」と実施時期が後退しており、「柔軟で多様な働き方を実現するため、労働時間法制などに係る政策対応について夏以降の労働政策審議会において議論を行う」と明記した。同日閣議決定した成長戦略では「裁量労働制の対象の在り方について見直しを検討する」と働き方改革に逆行している。
2.米国要求を背景に防衛費増額も青天井に
骨太方針では、防衛費について、「安保3文書」の検討を加速し、5年以内に防衛力の変革を実現する」「必要不可欠な経費を積み上げて『防衛力整備計画』を作成し、財源確保と併せて国民に丁寧に説明する」「主体的に防衛力を強化する」とした。「米国がNATO、韓国、豪州同盟国に防衛費の増額を求めている」とし、欄外に「NATO諸国は2035年までにGDP比3.5%目標に合意。韓国は可能な限り早期に国防費をGDP比3.5%、豪州は2033年度までにGDP比3%に引き上げ」と例示。2027年予算編成過程で防衛費の大幅な積み増しを狙っている。GDP比3.5%だと23.6兆円規模の防衛費が必要となり、かつてない程の社会保障削減進められることは必至である。
3.不十分な物価・賃上げ対応、中東危機による資材高騰踏まえ期中改定を
6月診療報酬改定は、医療界が求めてきた10%以上の引き上げには程遠く、物価上昇への対応、医療従事者の安定的確保や設備の維持・更新などは困難である。さらに中東情勢の緊迫化と長期化を受けた医療資材の高騰など医院経営は益々逼迫している。
骨太方針では「経済・物価の動向が2026年度診療報酬改定時の見通しから大きく変動し、医療機関等の経営状況に支障が生じた場合には、令和9年度予算編成過程で診療報酬上の加減算を含む更なる必要な調整を行う」と明記したが、中東情勢の長期化や円安・物価高騰によるエネルギー価格や医療資材等の高騰が想定されておらず、物価高騰に対応した診療報酬の期中改定等による直接的な財政措置が不可欠だ。
4.人口減を口実に地域の医療・介護提供体制の縮小・再編・淘汰を迫る
骨太方針では、「2040年に向けて病床数の適正化を着実に実施した上で、2027年度以降の新たな地域医療構想を踏まえた医療機関の連携・再編・集約化を促進する」「中山間・人口減少地域での柔軟な介護・障害福祉サービスの提供を推進」と明記した。
厚労省は、2040年の高度急性期・急性期病床の必要量として2025年の66万床から約半分の37万床まで減らす機械的試算を示しており、新地域医療構想のガイドラインでは、救急医療や手術等が可能な急性期の拠点病院は、人口20万人から30万人で1か所確保するとの方針を示している。急性期医療へのアクセスを一層困難にするものだ。
さらに、自維社保合意骨子では、「人口減少地域での持続可能な提供体制維持のため、医療・介護現場における職員配置基準の一層の柔軟化、現行の出来高の診療報酬体系では医療機関の運営が困難な地方の課題を踏まえ、外来の包括報酬の在り方を検討し、措置を講ずる」と明記している。医療機関や介護事業者の人材確保や経営困難を何も解決しないまま、全国一律の医療・介護サービスの提供を放棄するに等しい。
5.「社会保障負担率」でさらなる給付抑制迫る
骨太方針では、「現役世代の保険料率の上昇を止め、引き下げていくことを目指す」「27年度の社会保障負担率が25年度と比較して上昇しないよう取り組む」との方針を明記した。社会保障負担率は国民所得を分母とし、社会保障費の社会保険料部分を分子とする指標である。物価高騰や名目賃金の上昇を受けて、24年の18.5%に対し、26年は17.6%と低下している。社会保険料の引き下げは医療・年金・介護など公的給付の削減を意味する。国民にとっては、民間保険や私的年金など自己責任による「備え」への負担の付け替えでしかない。「負担率上昇の抑制」のために社会保障給付を削減することは、国・企業の社会保障負担責任を免除するものである。
過去30年間、政府の経済・財政政策の失策により雇用・賃金が低迷し、国民所得も横ばいを続けてきた。政府は物価高騰を上回る賃上げ実現など国民所得の向上にこそ目標設定すべきだ。
6.高齢者医療 3割負担の対象拡大狙う
骨太方針では、医療保険制度について、70歳以上の高齢者の医療費窓口負担割合について「原則3割となっている現役世代との間で年齢によらない真に公平な応能負担を実現する観点から見直しを行う」とし、「改革工程表を2026年末までに策定する」と明記した。介護保険制度では、「2割負担の判断基準の見直しについて。2026年度中に結論を得る」とした。
自維社保合意骨子では、70歳以上の高齢者に適用される高額療養費の外来特例のあり方や負担割合の区切りとなる所得水準の見直し、対象年齢の引き上げなど窓口負担の抜本的見直しを求めている。限りなく3割負担の対象拡大していく意図があり、介護の利用料2割化も含めて、現役世代と高齢者の有病率、受診状況、支払い能力の違いを無視した見直しが実施されると、受診抑制による重症化、医療・介護費用の増加、看護・介護離職の増加など患者・家族にしわ寄せが来ることは必至だ。
7.OTC類似薬 保険除外の対象薬剤拡大
骨太方針では、「OTC類似薬の保険給付の見直しの施行とその状況等を踏まえた2027年度以降の対象範囲の拡大に向けた検討」と記載した。2027年3月から77成分1100品目の医療用医薬品を対象に、薬剤費の25%が保険除外されるが、負担増実施後間髪入れずに対象薬剤の検討を求めている。日本維新の会は、処方箋医薬品を除いた医療用医薬品全て(1100成分・7000品目)を「一部保険外療養」の対象とし、薬剤費の全額自費(薬剤費:1兆2千億円)を求めている。
健保法改正で創設された「一部保険外療養」は、①既に保険収載されている薬剤を市販薬利用者との公平性や制度の持続可能性などの理由で一部を保険除外②配慮対象となる患者と配慮されない患者が生じ、被保険者間で差別的待遇を図る―などから、これまでの保険外療養費制度(評価療養、選定療養、患者申出療養)とは次元が全く異なり、公的医療費の際限のない縮小など国民皆保険の根幹を壊しかねない危険な性質を持っている。
セルフメディケーション推進として更なる医薬品・検査薬のスイッチOTC化など掲げているが、早期の受診・検査・処置の妨げに繋がり、原因疾患の見逃し、重症化、既往症と薬の相互作用・副作用による健康影響など患者・国民にリスクを背負わせるだけである。
8.公的給付削り「民間保険の活用」
自維社保合意骨子では「民間保険の活用」として公的保険を補完する民間保険の活用可能性、先進医療等の対象拡大、民間保険による補完が有効な領域(一部保険外療養と民間保険の相互補完を含む)、利用者保護の在り方について財務省、厚労省、金融庁を含む関係省庁で検討を行うことが盛り込まれた。がん治療の先進医療(自費)やOTC類似薬の保険外しのために新設された「一部保険外療養」の仕組みを使って、対象薬剤を広げ、民間保険でカバーさせる狙いだ。政府・与党が給付削減により不安をあおり、「不安なら自己責任で民間保険に入れ」と迫るものだ。負担軽減をうたいながら、民間保険に付け替えさせては本末転倒だ。
9.医療の市場化・営利化を推進
自維社保合意骨子では、「医療機関の営利事業(附帯業務・附随業務等)に関する現行規制の見直し」、「医療法人の理事長要件の一定要件下で非医師の理事長就任を速やかに可能とする」と明記し、公的保険の守備範囲を縮小させる動きとセットで医療の営利化・市場化を露骨に推移している。収益業務で得た利益を医療に充当することで、これまで以上に診療報酬を抑制していく狙いである。医療以外で儲けを出して、医療経営を維持しろという無責任極まりない提案だ。医療は高い公益性を持った事業であり、国民皆保険制度を国是とする以上、医療機関経営が診療報酬で安定的に継続できるように担保すべきである。収益業務が赤字となれば、医療業務に悪影響を及ぼすことが避けられない。
10.低すぎる歯科診療報酬を改善し、歯科医療提供体制の実現を
骨太方針では、「歯科専門職の偏在対策等の歯科医療提供体制の構築を図る」と明記。医歯薬連携等の推進、障害者等への歯科保健医療の充実、歯科技工所の質の向上・連携強化、歯科衛生士・歯科技工士の就労・離職対策を明記。いわゆる国民皆歯科健診の具体化(歯周病健診の対象拡大や就労世代の歯科健診の更なる充実)、口腔と全身の健康の関係に基づく歯科疾患対策・口腔健康管理(オーラルフレイル対策含む)を掲げた。
高齢化が進みフレイル対策はじめ歯科医療の重要性が年々増す中、真に国民が求める歯科医療となるよう、歯科専門職による国民皆歯科健診の推進はじめ歯科医療提供体制の充実、低すぎる歯科医療費全体を拡大することが不可欠であり、そのための具体化・実効性が求められる。


