歯科技工シンポジウムに160名参加

歯科医療費総枠拡大と取引ルール確立などアピール

10月29日(土)、保団連も参加する「保険で良い歯科医療を」全国連絡会総会と併せて、特別企画の「歯科技工問題を考えるシンポジウム」が、新宿・あいおいニッセイ同和損保ビルで開催された。シンポジウムには、会場とウェブを合わせて全国から160名の歯科医師・歯科技工士らが参加した。最後には、歯科医療費の総枠拡大や製作技工料が適正に配分される取引ルールの確立などを求めるアピールを採択した。基調報告やシンポジストの報告は下記のとおり。

シンポジウムの様子はYouTubeから見ることもできます。 https://youtu.be/O1v_zFTDbWE

 

1.基調報告(その1) 伊藤 多佳男氏 仙台歯科技工専門学校 校長

「精密な手作業求められる歯科技工士に、適正な対価の支払いを」

伊藤氏は、歯科技工士を養成する専門学校の校長として、この間の若手の歯科技工士の離職率の高さの原因と対策について報告した。

冒頭、歯科技工士として働く教え子からのメールを紹介。内容は、仕事への意欲を持ちながらも、昇給がほぼなく歯科技工士という仕事に将来性が見えず離職を考えている、というものだった。

伊藤氏からは、実際に若手技工士の離職率が高くなっている現状の報告ともに、その原因が過当な価格競争により生じる低賃金や長時間労働と指摘した。

そして、やりがいがあっても続けられない現状により、このまま若手の離職が続けば、歯科技工の技術が継承できなくなること、一度継承の途切れた技術は取り戻すことは困難と訴えた。また、技工士の高齢化を踏まえると残された時間はほとんどなく、早急に対応すべき課題と訴えた。

伊藤氏は、この間開催されている政府の歯科技工士の働き方改革に関する研究会についても言及。研究会の議論は、機材の共有やリモートワークなどのテーマに終止し、歯科技工士の窮状を改善するには的外れの議論であると指摘した。若い歯科技工士が働き続ける環境を整備するためには、精密な手作業を要求される歯科技工という労働に見合った対価を支払うことであると訴え、そのために今後も歯科医師など様々な立場の人と協力していきたいと語った。

 

2.基調報告(その2) 宇佐美 宏氏 全国保険医団体連合会 歯科代表

歯科医療費の総枠拡大に向け「保険で良い歯科医療を」連絡会を各地に作ろう

宇佐美氏からは、伊藤氏が訴えた歯科技工士の窮状を踏まえ、改めて歯科技工問題は経済問題であると指摘し、「7:3告示」の内容を徹底させるルール作りの必要性と、歯科医療費総枠拡大に向けた運動の必要性について、報告がなされた。

歴史的な経過として、歯科医療費抑制のための差額徴収やその廃止後も歯科については混合診療を認められてきたこと、歯科技工士たちの運動によって当時の厚生省から「7:3告示」が出されたが、直後の疑義解釈で内容が骨抜きとされたことなどを紹介した上で、歯科技工問題の解決には、まず、「7:3告示」が徹底されるルール作りが必要と訴えた。その上で、歯科技工所に対して十分な委託技工料を支払うために、歯科医療費の総枠拡大が不可欠と強調した。

最後に、1990年代後半に歯科技術料の増額を勝ち取った、「保険でよい入れ歯」運動を紹介。この経験から、歯科医療費総枠拡大には、歯科医師と歯科技工士の協力だけでなく、患者・国民を巻き込んだ運動が必要であること、そのために現在全国に11か所ある「保険でよい歯科医療を」連絡会を、今後各地へもっと広げていこうと全国へ協力を訴えた。

 

3.各シンポジストのから報告

①塚田 大助氏 勤医協ふしこ歯科診療所勤務 歯科技工士

北海道の歯科診療所に勤務する歯科技工士である塚田氏からは、院内の歯科技工士として患者さんとの対応や、外部技工所との連携などを紹介。患者から直接感謝の声をかけてもらった経験や、歯科医師や歯科衛生士と意見交換を行うことで、医療従事者として大きな刺激をもらっていると、院内技工士ならではの経験も述べた。若い歯科技工士やこれから目指す人たちのためにも、歯科技工問題の早期解決に向けた運動推進を訴えた。

 

②泉 敏治氏 ハイテックデンタルラボラトリー開業 歯科技工士

兵庫県で歯科技工所を経営する泉氏は、自身の体験を踏まえながら、現状の歯科技工士の長時間労働や製作技術料の安さといった問題を指摘した。現在の補綴物の製作技術料はあまりに安く、60代半ばに差し掛かった今でも、生活していくためには1日16時間の長時間労働をせざるを得ない実態も告発した。歯科技工士の労働条件を改善するために、「7:3告示」に則った製作技工料が保障されたとしても、現行の診療報酬の点数では、正直不十分との本音も吐露された。

 

③深井修一氏 深井歯科医院 歯科医師

山口県で開業する深井氏は、歯科医師の立場から、歯科技工問題を積極的に発信していくことの重要性を語った。

深井氏は、10月6日に実施した、所属する山口県保険医協会の歯科技工問題についての記者会見を紹介した。記者会見の様子は地元のNHKニュースでも放送され、歯科技工士の長時間労働や低賃金の実態、「7:3告示」が守られていない実態などに対して、視聴者からの驚きの声が寄せられるなど、予想以上の反応があったことを語った。

歯科技工問題を、マスコミなどを通じて、積極的に発信することで、世論の関心が得られた経験を踏まえて、今後の運動推進のため広く情報発信をと訴えた。

 

4.吉田統彦・立憲民主党衆院議員からの連帯の挨拶

立憲民主党の衆議院議員の吉田統彦議員から連帯の挨拶が寄せられた。

歯科医師で、東京歯科保険医協会の会員でもある吉田議員は、日本の歯科技工技術は世界に誇る優秀な技術であることを指摘。歯科技工の適正な評価のためには、診療報酬の引き上げを含めた歯科医療費の総枠拡大が不可欠であるとし、課題解決に向けて全力をあげると決意を述べた。

 

5.会場やウェブからも活発な意見 アピール採択し成功

 

会場やウェブから、歯科医師だけでなく歯科技工士からも発言が寄せられた。

仙台市にて夫婦で個人ラボ経営している歯科技工士の平栗氏からは、歯科技工士の復職支援の勉強会開催の経験から、シンポジストの塚田氏の発言も踏まえ、歯科医師とともに歯科技工士が直接患者の口腔内を見ることの意義について発言。歯科技工士のモチベーション維持向上にもつながると指摘した。

同じく歯科技工士の関氏からも、診療への帯同が技工士の意欲向上に非常に有意義であるのと同時に、厚労省の検討会で一旦は議論になりつつも立ち消えとなった経緯などが語られた。

兵庫連絡会の歯科医師・川村氏からは、製作技術料を「7:3告示」通りに配分したとしても歯科技工士は満足できないとの本音への理解を示した上で、歯科医師の立場からも製作管理料の低さを訴え、歯科医療費の総枠拡大の必要性、歯科医師と歯科技工士が共闘することの重要性を強調した。

 

最後に、①歯科診療報酬の総枠拡大②製作技工料が歯科技工士に配分されるルール確立③歯科技工士養成支援を含む5点のアピールを満場一致で採択し、盛況のうちに終了した。(アピールは別紙)