【談話】憲法違反の敵基地攻撃能力導入の閣議決定に抗議する―安保3文書改定について

全国保険医団体連合会では、12月16日に岸田内閣が、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を明記した新安保3文書(「国家安全保障戦略」(NSS)、「国家防衛戦略」(NDS)、「防衛力整備計画」)を閣議決定したを踏まえ、下記の談話をマスコミ各社に発表しました。[PDF:164KB]

2022年12月16日
全国保険医団体連合会
非核平和部長 永瀬 勉

憲法違反の敵基地攻撃能力導入の閣議決定に抗議する

――安保3文書改定について――

 

本日(12月16日)、岸田内閣は、これまで憲法違反であるとしてきた敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を明記した新安保3文書(「国家安全保障戦略」(NSS)、「国家防衛戦略」(NDS)、「防衛力整備計画」)を閣議決定した。これは、日本政府が掲げてきた「専守防衛」を事実上放棄するものである。防衛政策の重大な変更を国会に説明せずに閣議決定したことに対し、われわれは、いのちを守る医師・歯科医師として断固抗議する。

政府・与党内では、今後5年間で43兆円もの防衛装備品(武器等)を整備するための財源について、増税か国債発行かで意見の相違が表面化し、閣内でも不一致があったと報道されていた。しかし、本日同時に決定された与党税制改正大綱では、防衛費増額分17兆円を賄うため、法人税・所得税・たばこ税を再来年以降に段階的に増税すると明記した。一方で政府は、自衛隊員の官舎の整備や建設に充てるとの名目で、防衛費の一部を建設国債で賄う方針も検討している。結局、増税してでも借金してでも防衛費を今の2倍に膨張させることになる。これでは、医療・社会保障制度(少子化対策等)だけでなく経済成長(景気回復)をも犠牲にして軍備増強を最優先するようなものであって、憲法9条の精神だけでなく戦後の経済・財政政策に照らしても異常な決定であると言わざるを得ない。また、これだけの増税を伴う予算を確保できるのであれば、いままでの社会保障費の抑制・削減の正当性も説明できない。社会保障削減と医療・介護の本人負担増はただちに中止するべきだ。

さらに問題なのは、先制攻撃が事実上可能となる武器の購入に、多額の血税を投入する方針を打ち出したことだ。「スタンド・オフ防衛能力」として約5兆円を確保するとされているが、その中に「トマホーク」の購入が明記されている。同時に「統合防空ミサイル防衛」(IAMD)の導入も明記されているが、これは米国のバイデン政権が10月27日に公表した「ミサイル防衛見直し」(MDR)の「陸海空や宇宙、サイバーのあらゆる手段を用いる統合防空ミサイル防衛(IAMD)での同盟国との連携を引き続き重視する」との方針に呼応するものであり、「スタンド・オフ防衛能力」が米軍のミサイル戦略の一端を担うものであることが明確にされた。これは、南西諸島を念頭においた「島嶼防衛」や北朝鮮のミサイル等の「脅威への対処」とは異質の「防衛能力」であって、今回の閣議決定で示された「陸上・海上・航空宇宙自衛隊のIAMDの保有・整備」が東アジアの平和に与える影響は計り知れない。

今回の閣議決定は、特に台湾海峡を巡って緊張が高まっている米中関係の悪化を招きかねない。また、台湾問題に米軍が介入した場合、「スタンド・オフ防衛能力」と称する先制ミサイル攻撃能力を有する日本が、中国の攻撃目標にならないという保障はない。最悪の場合、日本列島全体がアメリカ本土を防衛するための「捨て石」となりかねない。今回の決定は、日本国民が平和の内に生存する権利を政府の行為によって侵害するものであり、到底容認することは出来ない

以上