国の責任で医薬品の供給不安定の改善を

内閣総理大臣 岸田文雄 様

財務大臣   鈴木俊一 様

厚生労働大臣 武見敬三 様

 

 

医薬品の供給不安定を国の責任で改善することを求める要請書

 

2023年10月11日

全国保険医団体連合会

会長 住江 憲勇

2021年に小林化工、日医工が製造不正等によって業務停止命令を受けたことに端を発する後発品を中心とした医薬品の供給不足は、現在も解決していない。

日本製薬団体連合会が公表した「医薬品の供給状況にかかる調査(2023年8月)」によれば、全医薬品の22.9%が限定出荷・供給停止の状況にあり、後発品に限ると32.3%に上る。特に、基礎的医薬品の10.0%、安定確保医薬品の24.0%が通常出荷されておらず、地域医療に深刻な影響を及ぼしている。

本来、製薬企業が医薬品の安全確保・安定供給に責任を負うことは前提だが、ここまで問題が長期化している背景には、後発品中心の薬価引き下げによる医療費削減、不採算状況による製造体制の不安定化、不合理な薬価引き下げにつながる独自の流通慣行、安定供給体制が確保されないままの政府の強引な後発品促進策、これらが複合的に絡み合っている。

そしてこのような状況は、根本的には、政府の社会保障費抑制策によって生み出されたものである。政府としてこの誤りを認め、公的医療提供に責任を負う立場としての主体性を持って、医薬品の安全確保・安定供給に必要な対策を講ずることを求める。特に後発品を中心とした医薬品の供給不安定に関して、下記の事項を検討、実施することを要請する。

 

 

1.現場の混乱に対応する事項

⑴ 政府として、患者・国民に医薬品供給不足の状況を周知し、処方変更等が起こり得ることを丁寧に説明すること。

⑵ 医薬品の調達、薬局や卸との交渉・調整、処方の変更に伴う患者への対応などで現場の負担は増している。12月31日までとなっている「外来後発医薬品使用体制加算」「一般名処方加算」「後発医薬品使用体制加算」の上乗せ措置を、供給不安定が解消するまで継続すること。

⑶ 「外来後発医薬品使用体制加算」「後発医薬品使用体制加算」等について、使用割合の算出対象から供給停止品目を除外する取扱いを、供給不安定が解消するまで継続すること。

⑷ やむを得ない処方変更や休薬を迫られた事例、およびそれらによって発生した健康被害等がないか、政府として患者、医療機関、薬局等への影響を把握すること。また、健康被害等への補償を十分に行うこと。

 

2.薬価改定に関する事項

⑴ 次回改定で不採算品目の薬価を適正に引き上げ供給安定化を図ること。原価高騰の影響で後発品の約3割の品目が赤字と指摘されている。2023年の中間年改定に引き続き、必要性の高い医薬品の薬価を下支えする必要がある。

⑵ 基礎的医薬品の対象拡大、不採算品目再算定の適用柔軟化など、必要性の高い医薬品の薬価を下支えする仕組みの改善を検討すること。また、最低薬価について、真に採算が確保される水準を検討し、最低薬価が設定されていない剤型にも新設すること。

⑶ 後発品の不採算状況は後発品を中心とした薬価引き下げによる医療費削減の結果でもある。医療費削減策の転換に舵を切り、新薬の薬価算定について透明性を高め、新薬の高薬価体制を改善する施策を進めること。

⑷ 中間年改定は、新薬の薬価維持を望む製薬企業が仕切価を下げない状況下では、後発品薬価を集中的に低下させるため廃止すること。継続するとしても、①薬価が低い後発品等の薬価が集中的に下がる乖離率に基づく選定をやめ、乖離金額の大きな高薬価の先発品を中心に改定する②後発品は対象外とする―など、必要性の高い医薬品の薬価が適正に保たれるよう改善すること。

 

3.その他の事項

⑴ 製薬企業の製造工程に対する管理、監督を強化し、医薬品の製造、流通に対する政府の責任を果たすこと。

⑵ 後発品を中心に薬価の不合理な低下を招いてきた医薬品の流通慣行(後発品が取引総額圧縮の調整弁となる総価交渉、卸の値引き販売を補填する製薬企業のリベート・アローアンス等)について、必要性の高い医薬品の薬価が適正に保たれるよう政府として対応すること。

⑶ 必要性の高い医薬品の原薬の国内製造比率を上げる施策をさらに進めること。

 

4.財源に関する事項

⑴ 上記1~3の事項に必要な財源について、500兆円を超える過去最高の内部留保を抱える大企業や富裕層に対する課税を強化し、医療・社会保障充実のために応分の負担を求める中で確保していくこと。