厚労省は、「現役世代の負担軽減」を口実に全世代1250万人が利用する高額療養費の大改悪を今年8月から実施しようとしています。高額療養費は、がんなど重篤な疾患を抱える現役世代の患者さんの命綱の役割を果たしています。現役世代も含めて全世代の命綱を破壊する大改悪はただちに撤回すべきです。制度の改悪は法改正事項ではなく省令で制度変更できます。そのため、高額療養費の改悪が盛り込まれた2025年度予算案の修正による制度改悪阻止に向けて各党への働き掛けが重要となります。
石破首相 「高額療養費の見直しを」
石破首相は1月24日、施政方針演説で、「社会保険料は安心のための拠出であり、すべて必要な給付として再分配されます。国民所得に対するその割合は、コロナ禍以前の水準に低下しております。一方で、少子高齢化に対する将来不安があるため、社会保障制度への不安が解消いたしません。年齢にかかわらず適切に支え合うことを目指す全世代型社会保障の理念に則り、改革工程に沿って着実に進めます。高額療養費制度の見直しなどにより、保険料負担の抑制につなげます。」と述べ、「高額療養費の見直し」などで保険料負担の抑制につなげると言及しました。しかし、2人に1人は生涯のうち1度はがんに罹患し、3人に1人はがんで亡くなる時代となっています。現在、重篤な疾患等で高額療養費制度を利用されている1250万人の患者さんだけでなく、すべの国民を不安にさせるセーフティーネットの改悪は将来不安を助長するものでしかありません。
高額療養費改悪など社会保障削減で28年までに1兆円捻出
1月21日の厚労大臣会見で保団連は、高額療養費限度額引き上げによる「保険料軽減」と子ども子育て支援金の1兆円の財源確保の関係について質問しました。福岡厚労大臣は、「子ども・子育て支援金の創設にあたり、国民や企業等に拠出をお願いする一方で、社会保障について徹底した歳出改革などによって、社会保険負担の軽減を図り、実質的な追加負担を生じさせないこととしたものと承知しています。今回の高額療養費の限度額の見直しは、こうした考え方を踏まえ実施する」と答弁しました。
政府は、2023 年12 月22 日に閣議決定した「こども未来戦略」において、こども・子育て加速化プランの財源を28年度までに3.6兆円の財源を確保するとしています。福岡大臣は「社会保障の削減を進めていく一方で、支援金を国民皆様方にお願いすることで、トータルでそれぞれの方の負担が増えないようにするという考え方」と答弁しました。財源(子ども子育て支援金)は医療保険者が被保険者から徴収されます。現在の社会保険料とは別に追加徴収すると社会保険料が上昇に繋がります。政府は、さらなる負担増への国民世論の反発を恐れて、3.6兆円のうち1兆円を医療・介護など社会保障制度を削減することで保険料上昇を抑制するという方針を掲げました。
子育て財源は別建てで確保すべき
昨年末の25年予算編成で、厚労省は子ども子育て未来戦略に基づく財源確保策(社会保険負担軽減効果)として、1700億円の社会保険料軽減効果(制度改悪により削減される医療給付費のうち保険料充当部分)を見込みました。内訳は、中間年改定による薬価引上げで1200億円、高額療養費の限度が引き上げで600億円の削減を見込みます。高額療養費の改悪は段階的に実施されますが最終の27年度で3500億円の保険料削減を見込んでいます。
高額療養費改悪の口実とした「保険料軽減」についても疑問符がつきます。厚労大臣の答弁「医療費は全体で毎年伸びていく部分もあります。ただ、今回の高額療養費の限度額の引き上げにより、ご負担をいただく部分もありますので、実質的な社会保険料の負担の軽減に資する面がある」と述べ、実際に保険証が軽減するわけではないことを示唆しました。高額療養費の見直し等で捻出された財源は子ども子育て支援法に基づく支援金制度に形を変えて充当されます。
高額療養費などの給付削減で一時的に健保組合の財政負担は軽減されますが、28年度にスタートする子ども子育て支援金制度で新たな拠出が求められます。「トータルで負担が増えないよう(福岡大臣)」に1兆円の高額療養費などの給付削減を行うものです。「保険料軽減」との表現は実際に保険料が下がわけではありません。
2024年の年間出生率が70万人を割り込む中、子ども子育て支援そのものは重要ですが、財源確保は医療・介護の給付費削減や社会保険料から徴収する方法ではなく、別建てで確保するのが本筋です。
防衛費 史上最高の8兆円超積み上げ
2025年度予算案では防衛費を8兆7005億円が計上され、初めて8兆円を超えました。11年連続で過去最高を更新しています。「安保3文書」の一つ「防衛力整備計画」に基づき、23年度からの5年間で43兆円を投じる方針が着実に推し進められ、憲法に違反する「敵基地攻撃」に使用可能な長射程ミサイルの整備などが盛り込まれています。また、25年度税制改正大綱では、防衛財源確保として法人税とたばこ税の増税が盛り込まれた。巨額な軍拡予算が、増税、医療・社会保障費削減として国民生活にのし掛かってきています。防衛費大幅増額や防衛増税を中止し、高額療養費など全世代の命綱を守るべきです。
<1月21日厚労大臣会見>
保団連
厚生労働省は、高額療養費の限度額を引き上げにより、被保険者の保険料が一人当たりで年1,100円から5,000円軽減されると説明しています。しかし、高額療養費の見直し等で捻出された財源は子ども子育て支援法に基づく支援金制度に充当されるため、結果として被保険者の保険料軽減には充当されない、つまり下がらないのではないでしょうか。「保険料軽減」との表現は実際に保険料が下がると誤解するのではないでしょうか。
厚労大臣
昨年成立した子ども・子育て支援法においては、子ども・子育て支援金の創設にあたり、国民や企業等に拠出をお願いする一方で、社会保障について徹底した歳出改革などによって、社会保険負担の軽減を図り、実質的な追加負担を生じさせないこととしたものと承知しています。今回の高額療養費の限度額の見直しは、こうした考え方を踏まえ実施するものであり、見直しによる保険料の軽減部分が、直接支援金に充当されるものではなく、医療保険における社会保険料負担の軽減に資するものと考えています。
保団連
保険料の軽減はされるということでしょうか。実際には、その部分を追加的な負担がないようにということで、大臣折衝事項で薬価引き下げも含めて0.49の財源で、残り0.5を積み上げるというようにペーパーを出されていますので、関係部局の説明では、結果として、それが子ども・子育て支援法の支援金の制度に流用されると理解しましたので、その点について、もう一度明確にお願いします。
厚労大臣
先ほどおっしゃった件については、社会保障の削減を進めていく一方で、支援金を国民皆様方にお願いすることで、トータルでそれぞれの方の負担が増えないようにするという考え方を示したものです。この保険料の軽減部分については、先ほど申し上げた通り、直接支援金に充当されるものではないため、保険料の軽減に資するものだということです。
保団連
充当されるかどうかは別として、下がるのではなく、上がらないようにするという趣旨でしょうか。トータルで上がらないようにするという趣旨で、社会保障給付を抑えたり、賃上げ等を取り組まれるという趣旨でしょうか。保険料が明確に下がるということの印象になるようなことは、誤解を招くと思いますので、その点についてご見解をお願いします。
厚労大臣
医療費は全体で毎年伸びていく部分もあります。ただ、今回の高額療養費の限度額の引き上げにより、ご負担をいただく部分もありますので、実質的な社会保険料の負担の軽減に資する面があるということです。実際の保険料そのもの等については、医療費の推移等も見ていく必要がありますが、当然、今回の高額療養費の見直しについては、保険料の軽減に資する部分に充てていくということで説明させていただきました。