
自民党と日本維新の会は6月9日、社会保障制度に関する与党協議を開催。日本維新の会は、75歳以上の後期高齢者の医療費について、窓口負担を原則3割化を主張しました。「骨太の方針2026」に向けて与党協議が続けられます。財務省・維新は「現役世代との公平性」と「年齢に関係なく応能負担」という論理を掲げていますが、「原則3割化」は医療を必要とする高齢者の受診抑制・健康悪化を招くものであり、高齢者切り捨てるものです。現役世代と高齢者の受療率や収入構造の違いを無視した議論が散見されます。受診実態や3割負担化の影響を検証しました。
高齢者は優遇されているのか

69歳までの現役世代は一律で3割負担ですが、70歳以上の高齢者は原則2割、75歳以上は原則1割です。現役世代に比べて窓口負担が低いことを理由に優遇されているとの批判があります。しかし、現役世代と同等の所得がある高齢者は「現役並み所得」と区分され窓口負担も保険料も同じ条件です。一方、70~74歳は原則2割(現役並み所得者は3割 )、 75 歳以上は原則1割(現役並み所得者は3割、一定以上所得者は2割)とされています。70歳以上でも「現役並み所得」の方には外来特例は適用されません。
高齢者の就業率上昇の背景は

昨年末にとりまとめられた厚労省審議会(医療保険部会 議論の整理(25年12月)では「高齢者の就業率・平均所得は上昇傾向」と分析しています。確かに、令和6年の労働力調査(総務省)では、60~64歳の就業率は74.3%、65~69歳は53.6%、70~74歳は35.1%、75歳以上 は12.0%と上昇傾向にあります。この原因の一つとして、65歳までの雇用確保措置の義務化(2013年4月施行)、 70歳までの就業確保措置の義務化(2021年4月施行)など法整備が進んだことによります。その一方で、70歳以上の就業率増加は年金収入だけで暮らしていけない生活状況を反映していることが推察されます。高齢者の就労が拡大し、「現役並み所得」に達した場合は、窓口負担は現役世代と同等の3割負担が適用されます。
「平均所得は上昇傾向」は高齢者だけではない
医療保険部会 議論の整理(25年12月)では、「所得や年金収入の分布の推移を見ても「所得なし」の者や低年金の者の割合は減少傾向にあり、所得は増加・多様化している」と分析しています。
高齢者の主な収入は年金であり、近年の物価高騰を反映し、名目の年金収入は増加しています。しかし、年金制度にマクロ経済スライドが導入されているため物価高騰を上回る水準に到達せず、異常な物価高騰で生活苦が広がっています。現役世代もインフレ局面で名目賃金も上昇しています。つまり、高齢者も現役世代も名目の収入は上昇しているが、生活に余裕があるとは言えません。実質的な年金収入や可処分所得を見ないと医療費支払いの余力を考慮したことになりません。
また、現役世代の実質賃金が上がらず、税・保険料の重い負担が給付削減や保険料軽減を求める原因になっています。保団連は、大企業の内部留保を活用し物価高騰上回る賃上げを実現していくことこそが重要と考えています。
高齢者の外来・入院の受診日数は大きく減少している

厚労省「医療保険に関する基礎支障」によると平成20年(2008年)と令和4年(2022年)の14年間で1人当たりの受診日数(年間)は入院外と入院のいずれも現役世代に比べて高齢者の各年齢区分において減少しています。
高齢者:70~74歳は-13.1日、75~79歳は-14.5日、80~84歳は-13.4日、85~89歳は-11.8日
現役世代:50~54歳は-1.6日、55~59歳は―2.1日、60~64歳は-4.0日、65~69歳は-5.5日
また、健康寿命が平成19年と令和4年の比較で男性は70.33歳→72.57歳と2.24歳延伸、女性は73.36歳→75.45歳と2.09歳延伸しています。
厚労省はこうした事実を元に「高齢者の受診率や受診日数は改善傾向にあり、医療費水準は5歳程度若返っている」と分析。財務省は「就業率や医療ニーズの実態を踏まえれば、もはや一律に高齢者扱いすべきでない。かつての65歳は現在の70歳、かつての70歳は現在の75歳に相当」と主張。医療費水準の低下していることを根拠に高齢者の定義を変更し、窓口負担増を画策しています。
入院、入院外の受診日数が現役世代に比べて減少した主な理由は、70~74歳の2割化(平成26年4月)、75歳以上一定以上所得者の2割化(令和4年10月)など窓口負担増で外来・入院とも受診抑制が積み上げられたことです。病気の罹患率が減少したから受診日数が減少したというよりは、相次ぐ負担増で医療を受診できなくなった実態を示すものです。

健康寿命とは、健康上の問題で日常生活に制限のない年齢の平均であり、疾患や治療の有無とは必ずしも一致しません。
※「健康寿命」は、国民生活基礎調査(大規模調査)の健康票における「あなたは現在、健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか」という質問に「ない」という回答であれば「健康」とし、「ある」という回答を「不健康」として算出している。
収入は低年金のみ 医療費負担増で家計は破滅する

日本維新の会や財務省が求める原則3割化を文字通り1割から2割の高齢者に適用した場合、70歳以上の高齢者2580万人(70-74歳780万人、75歳~1800万人)が負担増になります。70歳~74歳の高齢者1人当たりの患者負担(年額)は7万2775円です(医療保険に関する基礎資料 令和5年度の医療費等の状況・1人当たり患者負担)。夫婦だと14万5550円となります。
原則2割が原則3割に増加した場合は、単身で10万9162円、夫婦で21万8325円に増加します。75歳以上の高齢者1人当たりの患者負担(年額)は7万8998円(医療保険に関する基礎資料 令和5年度の医療費等の状況・1人当たり患者負担)、夫婦 だと15万7996円になります。原則1割が原則3割に増加した場合は、負担額は単身で23万6994円、夫婦だと47万3988円に膨らみます。
一方、収入が国民年金など年金のみで、年収80万円未満(住民税非課税)の75歳以上の高齢者は811万人います(窓口負担は1割)。世界保健機関(WHO)では、収入から税金や保険料、食費などの生活費を除いた「支払い能力」に対し、医療費の支出が40%を超える状況を「破滅的医療支出」と呼びます。低年金の高齢者の医療費を原則3割負担とすると「破滅的支出」に該当します。
また、財務省と日本維新の会は、外来医療費での過度な窓口負担を回避するため措置である高額療養費・外来特例の廃止を主張しています。窓口負担増に加え外来特例が廃止された場合、外来医療費は窓口負担金の額と同額になるため、非課税の方でも24万円の支払いが求められます。医療費で家計が破綻するのは一目瞭然です。
日本維新の会や財務省が主張する負担増を実施した場合の影響
財務省(財政審)や日本維新の会は高齢者医療原則3割、外来特例廃止を主張していますが、仮に実施した場合の負担増をシミュレーションしました。なお、現行制度における厚労省統計を元にした粗い試算です。
【財政審・日本維新の会の主張】
①外来特例廃止 医療費削減額 年3400億円
②70-74歳を原則3割
③75歳もゼロベースの見直し
<対象人数>
70歳以上の高齢者のうち、2580万人が負担増の影響を受ける。
(1)70歳~74歳(880万人)のうち、780万人の負担が1.5倍に増加。
【各所得区分・人数】
現役並み所得 3割 100万人(約11%)
一般所得 2割 520万人(約60%)
低所得Ⅱ 2割 190万人(約22%)
低所得Ⅰ 2割 70万人(約8%)
(2)75歳以上(1942万人)のうち、1800万人の負担が1.5倍~3倍に増加。
【各所得区分・人数】
現役並み所得 3割 142万人(約7%)
一般所得Ⅱ 2割 388万人(約20%)
一般所得Ⅰ 1割 601万人(約31%)
低所得Ⅱ 1割 505万人(約26%)
低所得Ⅰ 1割 306万人(約16%)
<負担増額(粗い試算)>
【70~74歳の高齢者】
現在の年間負担額: 単身 7万2775円 夫婦 14万5550円
原則3割の年間負担額:単身 10万9162円 夫婦 21万8325円
※医療保険に関する基礎資料 令和5年度の医療費等の状況(1人当たり患者負担)
【75歳以上】
現在の年間負担額:単身 7万8998円 夫婦 15万7996円
原則3割の年間負担額:単身23万6994円 夫婦47万3988円
※医療保険に関する基礎資料 令和5年度の医療費等の状況(1人当たり患者負担)
※70歳以上に適用される外来特例が廃止された場合は、1割から3割の一部負担金が患者負担額となる。
※高額療養費の年間上限が導入されるが、1医療機関で自己負担額が2万1千円以上である必要があるため高齢者の外来医療費では実質的に利用できない可能性がある。
参考
(高額療養費制度・年間上限)
住民税非課税(一定所得以下) 18万円
住民税非課税 29万円
~200万 41万円
200万から260万 53万円
260万から370万 53万円


