【談話】財政審建議、与党協議で「社会保障負担率」の目標検討 目標設定すべきは「国民所得の向上」

2026年6月30日

2026年7月1日

財政審建議、与党協議で「社会保障負担率」の目標検討

目標設定すべきは「国民所得の向上」

全国保険医団体連合会

政策部長 中村洋一

 

財務省(財政審建議)や経済財政諮問会議、与党協議は「社会保障負担率」を用いて社会保障費の抑制・上限設定を骨太方針2026に盛り込もうとしている。直近の円安・物価高騰、名目賃金の賃上げが続き、税・社会保険料収入も増加する中で、新たな指標を持ち出し社会保障費抑制と国民負担増を迫る狙いだ。過去30年間、政府の経済・財政政策の失策により雇用・賃金が低迷し、国民所得が横ばいを続けている。「負担率上昇の抑制」を梃に社会保障給付を削減することは国・企業の社会保障負担責任を免罪するものである。国民所得の向上にこそ目標設定し、物価高騰を上回る賃上げや正規雇用の拡大、労働法制の規制強化などで、家計所得の向上に責任を持つべきである。

 

 

「負担率」は経済動向で変動

社会保障負担率は、国民所得(企業所得+雇用者総報酬)を分母とし、社会保障費の社会保険料総額分を分子とした指標である。経済動向や社会保障給付の伸びで変動する。2000年から2019年までの20年間で5.6ポイント増加している。これは国民所得が2000年・392.5兆円から2019年・402.8兆円と微増(+2.6ポイント)にとどまる一方、分子の社会保障費が高齢化等で自然増していることによる。2024年を境に2024年・18.5%、2025年・17.8%、2026年・17.6%と低下しているが、近年の物価高騰・賃上げによる国民所得(分母)が顕著に上昇していることによる。

経済・財政政策の失策で国民所得は向上せず

国民所得は主に、雇用者報酬と企業所得で構成される。過去30年間、政府は、社会保障費の抑制を続ける一方で、非正規雇用の拡大や賃金の抑制など人件費削減を続け、雇用者総報酬・社会保険料収入は低く抑えられてきた。一方で、企業所得は、大企業を中心に国民の設備投資も抑制し、法人税の段階的引き下げ、社会保険料支出の抑制等により、大企業の経常利益や内部留保を大きく積み増している。

令和7年度年次経済財政報告(内閣府)では、過去30年程度の企業行動の変化について「過去30年間で人件費や国内投資が抑制され、利益は株主配当や企業の手元資金や内部留保が積み増しされた。法人税収も減税により伸び悩んだ」と分析・評価している。先進国では当たり前の設備投資増、賃金上昇、消費支出増による経済成長がない「失われた30年」を作り出したのは、法人税の負担軽減、雇用の流動化など新自由主義に基づく経済・財政運営の結果である。

国・企業の社会保障負担を放棄させるもの 

財政審建議は、「過去 30 年間の家計可処分所得の変動要因の中で、社会保険料負担の増加が大きな比重を占めていること」、「現役世代の負担軽減とともに、経済全体の賃上げ政策と相俟って、家計可処分所得の持続的な増加につなげていく」と述べ、社会保障給付(社会保険料)の伸びが家計所得の伸び悩みの主要因と主張している。

しかし、社会保険料を軽減し、可処分所得を向上させるとの財務省の主張は、医療・年金・介護など公的給付を削減し、民間保険、私的年金の活用など自己責任の「備え」に負担が転嫁されるだけである。30年間、国民所得を向上できなかった経済・財政政策の失敗を免罪し、社会保障に対する国や大企業の責任を放棄させるに等しい。

今必要なことは、労働法制の規制緩和や非正規雇用の拡大による賃金水準を低迷させてきた政府の責任を明確にし、労働法制の規制強化、正規雇用の拡大、物価高騰を上回る賃上げの実現で家計所得を向上させる政策へ舵を切ることである。社会保障費抑制のための新たな上限設定ではなく、雇用者報酬や家計所得など国民所得の向上のための目標を設定すべきだ。

参考①:令和7年度年次経済財政報告(内閣府・抜粋)

https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je25/index_pdf.html

「企業収益は大きく上昇する一方で、設備投資の伸びは緩慢なものにとどまる」、「固定費のうち人件費要因を取り出すと過去約 30 年間を通じ、総じて抑制的であった」、「企業部門の経常利益の増加は、主として、変動費率の低下や人件費の抑制等によるコストカットによってもたらされてきた」、「得られた利益は、主として、①利益剰余金の増加を通じた財務体質の強化、②現金・預金の増加を通じた手元流動性の確保、③海外投資の拡大に用いられてきた」、「法人税等の支払額は、利益が増加する一方で、法人税率が段階的に引き下げられてきた中、期間を通じてみれば大きく変化してこなかった」、「過去20年間で大きく増加してきたのは、配当支払のほか、社内留保である」と分析している。

 

参考②:社会保障負担率と国民所得の推移

社会保障負担率は、2000年・12.9%、2010年・15.9%、2019年・18.5%、2024年・18.5%、2025年・17.8%、2026年・17.6%と推移。

国民所得は1995年(386.7兆円)、2000年(392.5兆円)、2005年(383.6兆円)、2010年(362.2兆円)、2015年(395.9兆円)と推移。この20年間で、2.3ポイント(9.2兆円)しか伸びていないが、コロナ禍を経て2022年(419.1兆円)、2023年(441.4兆円)、2024年(452.0兆円)、2025年(477.6兆円)、2026年(496.1兆円)と急激に伸長している。