高市政権が「社会保障負担率」の目標検討 ―目標設定すべきは「国民所得の向上」 物価高騰上回る賃上げこそ

2026年7月12日

財務省(財政審建議)や自維合意骨子には、「社会保障負担率」を用いて社会保障費の抑制・上限設定を骨太方針2026に盛り込もうとしています。

直近の円安・物価高騰、名目賃金の賃上げが続き、税・社会保険料収入も増加する中で、新たな指標を持ち出し社会保障費抑制と国民負担増を迫る狙いだ。過去30年間、政府の経済・財政政策の失策により雇用・賃金が低迷し、国民所得が横ばいを続けている。「負担率上昇の抑制」を梃に社会保障給付を削減することは国・企業の社会保障負担責任を免罪するものである。国民所得の向上にこそ目標設定し、物価高騰を上回る賃上げや正規雇用の拡大、労働法制の規制強化などで、家計所得の向上に責任を持つべきです。

 

「負担率」は経済動向で変動

 

社会保障負担率は、国民所得(企業所得+雇用者総報酬)を分母とし、社会保障費の社会保険料総額分を分子とした指標である。経済動向や社会保障給付の伸びで変動する。2000年から2019年までの20年間で5.6ポイント増加しています。これは国民所得が2000年・392.5兆円から2019年・402.8兆円と微増(+2.6ポイント)にとどまる一方、分子の社会保障費が高齢化等で自然増していることによります。2024年を境に2024年・18.5%、2025年・17.8%、2026年・17.6%と低下していますが、近年の物価高騰・賃上げによる国民所得(分母)が顕著に上昇していることによります。

経済・財政政策の失策で国民所得は向上せず

 

国民所得は主に、雇用者報酬と企業所得で構成される。過去30年間、政府は、社会保障費の抑制を続ける一方で、非正規雇用の拡大や賃金の抑制など人件費削減を続け、雇用者総報酬・社会保険料収入は低く抑えられてきました。一方で、企業所得は、大企業を中心に国民の設備投資も抑制し、法人税の段階的引き下げ、社会保険料支出の抑制等により、大企業の経常利益や内部留保を大きく積み増しています。令和7年度年次経済財政報告(内閣府)では、過去30年程度の企業行動の変化について「過去30年間で人件費や国内投資が抑制され、利益は株主配当や企業の手元資金や内部留保が積み増しされた。法人税収も減税により伸び悩んだ」と分析・評価しています。

財政審建議「企業の分配構造見直しを」

財政審建議の参考資料でも、「投資の拡大とともに、企業収益や投資の成果が賃金として適切に分配される構造を確立していくことが求められる。これまで我が国では、企業収益や内部留保が積み上がる一方で、それが必ずしも賃金上昇や国内投資の拡大に結びついてこなかった。企業の分配構造を改めて見ると、令和6年度(2024年度)に過去最高の経常利益を記録するなど、企業部門の業績は堅調に推移しているが、近年の企業収益の伸びに比べ、人件費の伸びは限定的。分配構造を是正し、実質賃金上昇による継続的な需要拡大を実現しなければ、真の意味での経済力の強化は望めない」と指摘しています。先進国では当たり前の設備投資増、賃金上昇、消費支出増による経済成長がない「失われた30年」を作り出したのは、法人税の負担軽減、雇用の流動化など新自由主義に基づく経済・財政運営の結果です。

国・企業の社会保障負担を放棄させるもの 

 

財政審建議は、「過去 30 年間の家計可処分所得の変動要因の中で、社会保険料負担の増加が大きな比重を占めていること」、「現役世代の負担軽減とともに、経済全体の賃上げ政策と相俟って、家計可処分所得の持続的な増加につなげていく」と述べ、社会保障給付(社会保険料)の伸びが家計所得の伸び悩みの主要因と主張しています。

しかし、社会保険料を軽減し、可処分所得を向上させるとの財務省の主張は、医療・年金・介護など公的給付を削減し、民間保険、私的年金の活用など自己責任の「備え」に負担が転嫁されるだけです。30年間、国民所得を向上できなかった経済・財政政策の失敗を免罪し、社会保障に対する国や大企業の責任を放棄させるに等しいものです。

今必要なことは、労働法制の規制緩和や非正規雇用の拡大による賃金水準を低迷させてきた政府の責任を明確にし、労働法制の規制強化、正規雇用の拡大、物価高騰を上回る賃上げの実現で家計所得を向上させる政策へ舵を切ることです。社会保障費抑制のための新たな上限設定ではなく、雇用者報酬や家計所得など国民所得の向上のための目標を設定すべきです。