一部保険外療養の配慮措置に関する
中間とりまとめに対する意見
全国保険医団体連合会
1.一部保険外療養創設全般について
中間とりまとめにおいて改正健保法に基づく一部保険外療養の基本的考え方や医療保険部会の議論の到達について考え方が記載されている。それらについて総論的に意見を述べる。
保団連は、そもそも患者の命や健康、生活を脅かし、国民皆保険の根幹を破壊する「一部保険外療養」は廃止すべきと考えている。すでに保険収載されている薬剤の一部を保険の対象から外すという行為は、公的医療保険がカバーしている範囲を政府の一存で縮小していく仕組みが作られたという点で極めて重大な改悪である。
また、配慮すべき患者と配慮する必要のない患者を分けること自体が重大な問題をはらんでいる。これは患者間の分断を招き、生活習慣に関わる疾患などは自己責任であって公的医療保険でカバーしなくてもよいという議論に必然的につながってしまう。
政府は現役世代の保険料の軽減(上昇の抑制)や制度の持続可能性を口実にして公的医療費削減を正当化している。しかし、77成分1100品目の薬剤費を一部保険除外とする見直しに伴う医療費削減額は年間900億円(追加負担500億円、受診抑制400億円)、保険料軽減効果は加入者1人当たりわずか年400円(月33円)にすぎない。一方、必要な治療として対象薬剤が処方されたら患者の意思にかかわらず、窓口負担とは別に追加料金が徴収される。例えば、現役世代も多く罹患する花粉症では、内服薬1種類、点眼薬、点鼻薬を処方された場合、月1,500円の負担増となる。「保険料の現役世代の負担軽減」は微々たるもので、薬剤負担はかえって大幅に増えてしまうので現役世代にも医療費自己負担は負担増である。
今回の一部保険外療養創設は、薬剤費の一部を保険給付外にするために保険外併用療養費制度の仕組みを悪用しており、必要な医療は保険診療で給付するとした国民皆保険制度の基本理念から大きく逸脱している。また、将来に渡り7割給付を維持するとした2002年改正健保法附則にも反している。
厚労省は趣旨説明の資料で、「医療用医薬品の給付を受ける患者と市販薬(OTC薬)で対応している患者との公平性の確保」と書き、それを理由に薬剤費の一部を保険除外するとしている。
しかし、市販薬(OTC薬)で対応する人がいることを理由に、医療機関に受診して薬を処方してもらうことを問題視する考え方が根本的におかしい。本来なら医療機関を受診したいのに受診できず、市販薬で対応せざるを得ない患者が大勢いることが問題であり、国がそうした患者には受診する機会を保障すべきである。望ましくない現実があることを理由に、望ましい現実を改悪しようというのはまともな政策ではない。
一部保険外療養は、すでに保険収載された薬剤の一部を保険給付の対象から外すという点で、既存の保険外併用療養費制度の3つの類型(評価療養、患者申出療養、選定療養)とは全く次元が異なる。
2.医療用医薬品とOTC医薬品の「代替性」について
医療用医薬品は、医療保険制度の下で医師の診断に基づき処方・調剤される医薬品であり、一方、OTC医薬品(市販薬)は、患者自身の判断により用いられることを前提としているなど、制度上異なる位置づけである。
厚労省は、代替性の根拠として成分・投与経路が同一で一日最大用量が同じであることを掲げているが、例えそれらが同一であっても医師が診察(必要な場合は検査)し、薬物療法が必要と判断した患者に処方される医療用医薬品と症状のみで自己判断で購入が可能な市販薬とは性質が異なり、「代替性」があるとは到底言えない。
また、中間とりまとめでは、一部保険外療養を導入する観点として「医療用医薬品の処方を受ける方」と「OTC医薬品を購入する方」との公平性を確保することが保険診療の公平性確保につながると説明しているが、市販薬は必ずしも患者でなくても購入可能であり比較対象とならない。
3.OTC類似薬の処方の有無で患者に追加負担は公平性に欠ける
中間とりまとめでは、「一部保険外療養は、必要な受診を行った上で、結果的に対象となる医療用医薬品が支給される場合に別途の負担を求めるものであり、一律にOTC医薬品を用いたセルフメディケーションを求めるものではない」と説明している。これは、症状があり受診した患者において、たまたま、対象薬剤が処方された場合に追加料金が徴収されることとなるが、患者には何ら責任がなく、OTC類似薬以外が処方される選択肢もない。にもかかわらず、一部負担金を支払った上で患者に追加料金を徴収することになることは、OTC類似薬が処方された患者とそれ以外の薬剤が処方された患者との公平性に欠ける。
4.必要な医療が確保されるための配慮 医学的な根拠なし
中間とりまとめでは、必要な医療が確保されるための配慮として「がん患者や難病患者など配慮が必要な慢性疾患を抱えている方」としているが、指定難病や公費医療の対象者に限定されたことで、配慮対象外とされた慢性疾患患者が多数存在する。なぜ配慮が必要ないとされたのか当該患者の納得が得られる十分な根拠や医学的な妥当性は存在しない。
また、「必要な医療が確保されるための配慮として医師が対象医薬品の長期使用等が医療上必要と考える方に対して別途負担を求めない配慮を行う」としている。厚労省の説明によると、難病患者など配慮が必要な慢性疾患患者(公費医療の対象者)は、完治が難しい疾患で生涯にわたり対象薬剤を使用する可能性があることが配慮対象の判断基準とされている。しかし、難病患者やがん患者において必ずしも対象薬剤を通年処方していない薬剤もある。また、関節リウマチ、繊維筋痛症など、難病指定されていないが完治が難しい慢性疾患の多くが配慮対象外とされている。
社保審医療保険部会で決められた「医師が対象医薬品の長期使用等が医療上必要と考える方」とするルールが必要な医療が確保されるとする医学的・薬学的な根拠も不確かである。「技術的検討会」では、医学的・薬学的根拠を論拠に、内服薬においては年50週以上が配慮対象、外用薬は長期処方でも原則配慮対象外としたが、臨床実態と大きな齟齬が生じ、医師が患者に説明、納得が得られるとは到底思えない。以下に、具体的な不合理事例を示す。
5.通年で治療継続し症状に応じた処方により通年処方に該当しないケース
「年間を通じた症状の持続と治療の継続性により、1年を通じた使用実態を確認する」とされている。しかし、アトピー性皮膚炎、喘息などの慢性疾患により通年で治療継続している場合でも、複数の薬剤を用いて症状をコントロールしている患者が多い。その際、医師が症状に応じて薬剤処方を判断しているため、77成分の対象薬剤単体を見ると必ずしも通年処方とならないケースも出てくる。通年で治療を継続しているのに、薬剤単体で見ると通年処方に該当しない場合は配慮措置の対象外となるのは不合理である。
例)慢性の気管支喘息でステロイド吸入剤は通年処方だが、症状に応じて抗アレルギー薬(アレグラ)、去痰薬(ムコダイン)を処方するケースは、アレグラ、ムコダインは配慮対象外となる。
例)アトピー性皮膚炎でリンデロン軟膏は増悪時、ヒルドイドローションは常時の場合、リンデロン軟膏は配慮対象外となる。
例)アトピー性皮膚炎で当初はリンデロン軟膏を処方し、改善傾向にある場合、ロコイドに処方変更し症状をコントロールしている。単剤で見ると通年処方とならず配慮対象外だが、常時、いずれかの対象薬剤を使用している。
6.通年で治療継続し、通年処方と同量以上対象薬剤を使用しているが医師の処方方法により長期間使用に該当しないケース
関節リウマチ、変形性関節症など慢性疾患で治療継続しているが、冬場が特に体がこわばって痛みが出るため、湿布が処方されているケースでは、通年処方とならず配慮対象外となる。こうしたケースでは処方量が多く過度な追加負担となる。低所得者へ配慮するとされているが、長期使用=対象薬剤の年間使用量という解釈で配慮措置を適用できないか。
7.通年で治療が必要だが、患者都合で受診できないケース
腰痛、ヘルニアなど通年治療が必要だが、仕事が多忙などの理由で定期受診ができず、通年処方とならないケースでは、通年処方に該当せず対象外となるのか。医師が、通年通院が必要と判断しているにもかかわらず多忙で受診の機会が確保できない患者に不利益とならないか。
8.初診時点で長期使用の必要性が判断できるケース
関節リウマチやアトピー性皮膚炎、老人性乾皮症など、初診時から通年使用が予見されるケースがある。既に発症し長期使用している患者と差をつけることは不合理である。
9.継続した医学的管理の必要性が高いケース
当該薬剤の使用が1年に満たない期間であったとしても、継続した医学的管理の必要性が高いケースではOTC医薬品の使用が適切でないケースもある。医師が継続した医学的管理の必要性が高いと判断した場合は、配慮措置を適用すべき。
例)関節リウマチの治療では、まずDMARDのリウマトレックスを使うが、効果が出るのに少し時間がかかるため、痛みを早く抑えることやCRP値を早く下げる目的でNSAIDsを併用することがある。また、DMARDは副作用も多いため、NSAIDsしか使用できないケースもある。こうした、病変の炎症を抑える目的でNSAIDsを使用するケースでは、多くはNSAIDsの長期処方はなされないが、継続した医学的管理の必要性が高い。
例)市販薬(OTC医薬品)の効能・効果が、そもそも継続した利用を想定していない成分が存在する。例えば、ヒドロコルチゾン酪酸エステル外用剤においてはOTCの添付文書に「5~6日間使用しても症状がよくならない場合は使用を中止」とあるため、湿疹を想定しているものの、年単位で慢性に経過するアトピー性皮膚炎での使用は想定されていない。同様に、OTC医薬品のヘパリン類似物質の効能効果は一時的な乾燥・凍瘡(しもやけ)・打撲を想定しており、アトピー性皮膚炎は含まれていない(ヘパリン類似物質の保険病名は「アトピー性皮膚炎」)。このように、継続した医学的管理の必要性がある疾患で「通年処方」が想定される場合には、OTC医薬品でも代替することはできないため、別途の負担の対象外してはどうか。
10.消炎鎮痛剤の外用薬の配慮措置について
関節リウマチ患者、線維筋痛症、変形性膝関節症など患者数が多い慢性疾患患者の消炎鎮痛剤の外用薬(ロキソプロフェンの湿布)は長期で利用した場合でも配慮対象外とした。高齢でも建築労働者、車両運転手など肉体労働者は慢性腰痛などの痛みを伴う疾患の治療を継続しながら働いている。消炎鎮痛剤の外用薬の保険除外により患者であり労働者である国民に大きな負担増を強いることとなる。健康を保持しながら高齢者の就業促進を進める政府の方針にも反する。負担増により治療と両立できなくなれば、就業制限につながり、社会の生産性も低下する。
厚労省は、「変形性関節症、慢性腰痛等に対する湿布薬又は鎮痛消炎剤については、主として疼痛緩和を目的として処方されるものであり、使用継続の必要性が患者の主観に左右されやすい」と否定的に捉えている。しかし、痛みに苦しむ完治が難しい慢性疾患、慢性疼痛の患者に対して、痛みは主観的なものだからがまんしろと言っているに等しい。疼痛緩和を目的とした薬剤だからこそ高齢者の関節痛に伴う日常動作の低下を防ぐ、フレイル予防に役立つという側面もある。
厚労省は消炎鎮痛剤の外用薬を長期使用した場合でも配慮しない根拠として、変形性膝関節症や慢性腰痛等で消炎鎮痛剤の外用薬の長期間利用での効果測定の研究がないことを根拠にし、研究していないだけで「効果がない」と印象付けているが、配慮対象外とすることとは無関係である。
さらに、慢性疼痛診療ガイドラインを引用し、「慢性腰痛に対してNSAIDsの効果はあるものの大きくはない」、「漫然とした長期投与は避けるべき」としているが、ガイドラインの指摘は腎機能障害などの副作用リスクを考慮すべきというものであり、「慢性疼痛に効果がない」ことを意味しない。慢性疾患には増悪や寛解などが繰り返される状態変化の反復性の高いことが特徴である。反復性は要配慮対象となりうると考える。消炎鎮痛剤の外用薬を利用する慢性疾患患者を結果的に排除することとなる。患者の痛みに真摯に向き合うべきだ。
11.医療現場に説明責任を押し付けないで 患者とのトラブルを強く懸念する
長期処方(内服薬)に関する配慮対象の線引きルールでは、対象となる1042品目の薬剤が処方される患者に対して、医師が最大で過去1年分の治療歴、薬歴を確認することが必要となる。その情報を元に特別料金を徴収する処方箋か、配慮措置が適用される処方箋かを判断し実務的な対応が求められる。
日常診療で、患者毎でなく処方箋毎にこれらの対応を行うこととなり複雑・煩雑な作業が強いられ、医師の診療業務に支障が生じる。処方薬に関して薬局とのトラブルも増加すると予測され診療業務に今まで以上の負担を生じるであろう。
処方箋発行後に、患者や薬局からの申し出等で過誤が生じた場合の訂正作業等も必要であ
り、レセプト請求後に発覚した場合、レセプト返戻が生じる可能性も出てくる。初診患者において、向こう半年間は追加料金を徴収し、その後も継続治療が必要な場合、別途負担の対象外とする案も出されているが、患者トラブルを誘因しかねない。
中間とりまとめでは、「本制度の検討に当たっては、医師、薬剤師等の医療従事者、患者、 保険診療に係るシステムベンダ等の様々な方々の協力を得て進めていくことが不可欠である。そのために、本制度の検討に当たっては、制度が複雑なものとならず、制度の目的や運用が分かりやすく納得感のあるものとなるよう設計するとともに、円滑な施行が可能となるよう、丁寧な周知を行っていくことが求められる」と言及しているが、OTC薬と医療用医薬品との効能・効果の違いによる対象・対象外となる疾患が設けられるなど、制度が複雑過ぎて、医師も患者も理解することは不可能な状態であり、一部保険外療養は持続可能な制度とは言えない。日常診療に全くプラスにならない追加的な業務を強いることになり、医師の診療妨害とも言うべき状況を引き起こしかねないことを強く懸念する。
改めて保険医療制度を守るためには、先進諸国に見られるように大幅な国庫負担を増やすべきであると主張する。
以上


