第14回 私の婚姻・離婚遍歴
新田 久美 (第3次選択的夫婦別姓訴訟原告)
1994年に横浜の海岸通り教会で結婚式を挙げた。当時は選択的夫婦別姓導入の機運が高まっていたこともあり、夫と話し合って、しばらくは様子見の事実婚を選択した。
ところが、当時勤めていた電機メーカーでは、事実婚では社宅に入ることができず、致し方なく婚姻届を提出した。どちらの姓にするかは、私の発案で、じゃんけん3回勝負で決めた。1回目は私が勝ったが、2連続負けを喫し、夫の姓で最初の婚姻届を提出した。
その後、同じ日に離婚、私(妻)の姓で再婚(区役所に同日は止めてくれ、と言われ記載は翌日婚姻届を出したことになっているが、提出は同じ日)、パスポートや免許証の名前を維持するため、お互いの扶養親族になるため、ペアローンのため、と離婚再婚の繰り返しで、今は6回目の事実婚中である。
通称併記の弊害
前職の事業所では旧姓使用は不可だったが、1つ歳上の先輩と特許や論文の継続性を訴え、工場での旧姓使用を実現した。経過措置としてはやむを得ないものだったと当時は思っていたし、それなりの達成感があった。しかし、先日、後輩男性に「通称使用って、一生仮の名前で生きていけ、人権を国がないがしろにしているってことではないですか」と言われ、自分の認識が中途半端であったことを痛感した。
その他にも問題は山積している。国内外の衛星の管制室や試験場など、セキュリティーレベルの高いエリアで仕事をするためには、他国の宇宙機関にID発行を依頼したり、建物に入るために、パスポートを預けなければならない。長年国際宇宙ステーション(ISS)のフライトディレクターを務めている同僚は、日ごろやり取りしている名前とは異なるID名が自分であることを示すことに毎回しつこいくらい確認が必要で、旧姓併記はパスポートの信用性が疑われるのでしていない。
私の今の上司(男性)は、10年事実婚の後、子供ができて、婚姻届を出すことにしたが、周囲の苦労を見て、自分が旧姓使用したときのセキュリティー確保の難しさを感じ、妻に姓を変えてもらっていた。
夫婦同姓を強制している国は日本だけになったため、海外では理解されず、カッコつきの併記はむしろ身分証としての信用を失墜させ、国民にリスクを負わせている。
事実婚をすればよいのでは、という声もあるが、婚姻しないことによるリスクも大きい。いずれにせよ、個人にリスクを負わせている状況を一日も早く改善してほしいと結婚30年を過ぎて願っている。
(全国保険医新聞2024年12月25日号掲載)
(にった・くみ)
仮名。電機メーカー勤務の後、大学院でマイクロギャップ放電の研究、宇宙機関においてスペースデブリに関する研究に従事。息子が就職で家を出、夫と猫2匹と同居中。コロナ禍後、海外出張がほぼ毎月ペースとなり、ずっと時差ボケ。