医師の男女賃金格差 ~女性は男性の75%! 同じ医師免許なのに、、、

医師の男女賃金格差

女性医師の賃金は男性の75%

残業代除いても年350万円差 同じ医師免許なのに…

女性医師の平均賃金は男性医師の75%程度にとどまっていることが保団連の分析で分かった。2023年の年収は女性が約373万円少なく、残業代や宿日直手当等を含まない所定内給与で見ても、医療機関の規模別、経験年数別、年齢階級別のほぼ全てのカテゴリーで男性が上回り、研修医に当たる30歳未満でも女性は男性の9割程度と、スタート時点から「説明できない男女賃金格差」があることが分かる。

常勤職員10人以上の医療機関に勤務する医師の男女賃金格差

きまって支給する現金給与額(職務手当、皆勤手当、家族手当、通勤手当等を含む)×12カ月+年間賞与その他特別給与額の合計を比較。
(出所)厚労省賃金構造基本統計調査をもとに保団連作成
30歳未満は女性の方が長時間労働

厚労省の2023年賃金構造基本統計調査を基に年収を計算した。常勤10人以上の事業所を対象に、抽出調査で男性医師9万8230人、女性医師2万902人が回答した。勤続年数は男性9・1年、女性5・8年。所定内労働時間は男性164時間、女性161時間で、超過労働時間は男女とも平均20時間。所定内・超過労働時間を合わせると、20~24歳は男性200時間・女性208時間、25~29歳は男性202時間・女性205時間で女性の方が長く、30~69歳は男性の方が4~22時間長かった。
残業代や宿日直手当など超過労働給与を含む平均年収は男性1522万円、女性1148万円で、すべての年齢階級で女性が下回った。30~34歳、55~59歳、70歳以上に大きな谷があり、70歳以上は男性の約4割で983万円の差がついた。

残業代を含まない所定内給与と賞与等の年額で比べても女性は男性の74・1%、348万円少なかった。

男女、年代別に見た勤務医(規模10人以上)の年収と所定内給与(2023年)

所定内給与:きまって支給する現金給与額(職務手当、皆勤手当、家族手当、通勤手当等を含む)のうち、超過労働給与額(①時間外勤務手当、②深夜勤務手当、③休日出勤手当、④宿日直手当、⑤交替手当として支給される給与)を差し引いた額で、所得税等を控除する前の額。
(出所)2023年厚労省賃金構造基本統計調査をもとに保団連作成
スタート時点で男性の9割

20~23年の平均年収を年齢階級別に見ると、男性を100とした場合の女性の水準は、ほぼ全年齢で90%以下。70歳以上では65・5%で、差額は平均571万円に上る。
残業代等を含まない所定内給与と賞与等の年額は、20~23年平均で全年齢において女性の方が低く、研修医に当たる30歳未満でも90%程度だった。経験年数(その医療機関での勤続年数)別に見ても、経験年数0年からほぼ全ての階級で8割~9割前後となり、経験15年以上では4年平均で年間約268万円の格差が生じている。

経験年数別男女賃金格差

経験年数(その医療機関での勤続年数)別に所定内給与と賞与等の年額を比較。
(出所)厚労省賃金構造基本統計調査をもとに保団連作成
日本の格差、先進国ワースト4位

医師に限らず、日本は男女賃金格差が大きく、OECD(経済協力開発機構)加盟国でワースト4位だ。全産業的には、女性は非正規雇用が多く、また出産・育児等によるキャリア断絶や時間外勤務の有無などが影響していると言われている。

女性は子どもが多いほど賃金が低い

日本バプテスト病院の大越香江外科副部長が外科医を対象に行った調査(16年)では、労働時間や職位などで調整しても男性の方が平均給与が150万円高かった。さらに男性は子どもの数が多いほど給与が増え、子ども1人当たり36万円増加する一方、女性は子ども1人当たり73万円減少した。
23年にノーベル経済学賞を受賞した米国ハーバード大学のクラウディア・ゴールディン教授は、MBA(経営学修士)を取得した男女を16年間にわたって分析し、女性が子どもを産むと労働時間と収入が減る「母親ペナルティ」の存在を明らかにした。

「説明できない男女賃金格差」14・8%

一方、同じ医師免許を持ち、残業代や宿日直手当等を含まない給与で、スタート時点から一貫して女性の方が低いのはなぜだろうか。
明治大学の原ひろみ教授(労働経済学)は「男女の賃金格差は、知識や経験など『人的資本の差』で説明できる格差と、説明できない格差に分解できる」と話す。
原教授の推計で、21年のフルタイム勤務者の男女賃金差は中央値で27・3%あり、このうち半分以上の14・8%が知識や経験などで説明できない差であるという。
「説明できない格差は、労働市場における差別を表すと考えられている。詳細に分析する必要があるが、医師の男女賃金格差にも、人的資本の差で説明できない差があるのではないか。日本は『男性は外で働き、女性は家庭を守るべき』といったジェンダー規範が強い国の一つだ。ジェンダー規範を背景に、女性自身が労働時間が短く賃金が安い仕事を選ぶこともあれば、偏見によって女性は賃金の高い責任ある仕事を任されないということも考えられる」と話した。

手術執刀機会にも男女差

手術執刀機会にも男女差があることが分かっている。大阪医科薬科大学の河野恵美子助教らが22年に手術症例の大規模データベース(NDC)5年分を分析した結果、女性の消化器外科医は男性より手術執刀の機会が少なく、特に難易度の高い術式でその傾向が強かった。手術の担当を決める上司はほとんどが男性で、管理職のジェンダーバイアスが影響しているとみられる。