現役世代にも打撃
政府は、高齢者の負担増により、現役世代(70歳未満)の保険料負担軽減を図ると強調していますが、現役世代への保険料負担軽減は微々たるものです。そもそも、今回の見直しは、現役世代に対しても、大幅な患者負担増を強いるものです(※【シリーズ7、8、9】参照)。
高齢者への負担増は、高齢親族の生計を支える者、働きながら親の介護を担う者(約267万人)や、育児と介護を同時に担うダブルケア世帯(少なくとも25万人以上)はじめ、現役世代にも打撃を与えます。ワーキングプア、メンタルヘルス、家庭内暴力などが原因で成人した子どもを高齢世代が支える「8050問題」も増えています。負担増で家族共倒れとなりかねません。国は現役世代と高齢者を対立させる議論をやめるべきです。
窓口負担は受診抑制が避けられない
政府や厚労省は、「負担能力に応じた負担」(いわゆる、応能負担)を求めるとして、収入段階に応じた負担限度額の引き上げを正当化していますが、そもそも医療は必要な時に迅速に十分なだけ提供されなくては意味がありません。医療の利用に際して、窓口負担の支払いに応能負担を導入・拡大すれば受診手控えの発生・悪化は避けられません。窓口負担額の増加が受診の手控えを増やすことは、「長瀬効果」として学術的にも確証されており、国自らも公式に認めているものです。
応能負担は税・保険料で徹底すべき
「応能負担」は、税・保険料の負担においてこそ、適用・徹底されるべきです。
高額所得者にとっては、相当の保険料負担が求められつつ、いざ大病などを患った時に事実上、青天井で医療費を支払うとなれば、公的医療保険制度に加入するモチベーション自体が損なわれかねません。アメリカに次ぐ「貧困大国」ともいわれる中、辛うじて国民皆保険制度(医療、年金)が、国民・社会の連帯を維持する最後の掛け金となっています。これ以上の亀裂、社会不安を広げないためにも、負担限度額の引き上げ(支払格差の拡大)はやめるべきです。
所得が高い人ほど相応に保険料を多く負担してもらう一方、医療費の利用に際しては負担(窓口負担割合、負担限度額)は所得の高低に関わりなく、平等な水準にすべきです。負担限度額引き上げは中止するとともに、先進諸国で見ても高い「原則3割」の窓口負担を段階的に引き下げていくことが必要です。
【参考】高額療養費制度に関する保団連の要望
保団連は、高額療養費制度の見直しに断固反対するとともに、以前より制度改善の要望を行っております。要望事項は以下の通りです。
※<要望>は、声明(2024年12月18日)より。
※<緊急の要望>と<抜本的な改善要望>は、要望書(2018年9月9日)より。
<要望>
1.高額療養費制度について、負担限度額を引き上げる見直しは中止すること。
<緊急の要望>
1.高齢者(70歳以上)の負担限度額について、改変前(2017年1月)の水準に戻すこと。
2. 外来枠(個人毎)を全年齢に拡大するとともに、負担限度額を引き下げること。
※外来特例は、2002年に月額上限を廃止し定率1割負担を徹底した際の負担軽減策として導入された。
3.月をまたぐと合算できない問題について、少なくとも1カ月未満の入院について入院開始日から1カ月単位の起算とするなど改善を図ること。
<抜本的な改善要望>
1.負担限度額を制度改変前(2017(平成27)年1月)の水準の2分の1程度に引き下げること。 (【下表】において、20117年1月以前の負担水準を掲載。)
2.高額療養費制度は国民の負担限度額を規定しているにもかかわらず、1%条項の「応益の仕組み」によって、重度で高度の治療が必要な人ほど負担が増える仕組みとなっている。この「応益の仕組み」を完全に撤廃すること。
3.同一保険者である場合は、1カ月の負担額が21,000円未満であっても世帯合算ができるようにすること。同一世帯においては、異なる保険者であっても世帯合算できるようにすること。高額医療・高額介護合算療養費は、申請による償還ではなく、職権適用による償還とすること。
4.月をまたぐと合算できない問題については、その治療が終了するところまでで合算できるようにすること(治療が長期間にわたる場合は、一定期間で区切りをつけて合算する)。
5.「多数該当」は、1年以内に3回高額療養費給付月があった場合、4回目以降は減額される。1年以内という条件を緩和し、同じ疾患への治療で高額療養費の給付があった場合には、1年を超えても4回目以降について減額すること。
6.年間の負担限度額の設定について、適用対象を拡大すること。
7.高額療養費制度を使いやすくするため、手続きを簡素化すること。制度のことを知らない患者が多いため、広報活動を充実すること。