全ての患者で負担増に
厚労省は、患者が支払う負担限度額を大幅に引き上げる方針です。以下、現役世代(70歳未満)を中心に説明します。
2025年8月以降、現行の各年収段階に応じて傾斜をつけて、負担限度額(多数回該当も含む)について、おおむね、「住民税非課税」は2.5%増、「370万円未満」は5%増、「370万~770万円」は10%増、「770万~1160万円」は12.5%増、「1160万円~」は15%増とします。
次いで、2026年8月以降、住民税非課税を除いた各年収段階を細分化した上で、各年収段階内で年収が高い層から、引き上げ幅を高くする形で見直します(イメージは下図)。高齢者(70歳以上)についても、おおむね同様な形で見直します(※高齢者の「外来特例」は別途見直す)。
低所得層に対する負担の軽減すら一切なく、全ての患者を対象に負担増を求めます。
年収650万円で7割超、200万円で4割の引上げ率
とりわけ問題なのは、被保険者(現役世代)の8割近くを占める中所得・低所得層に多大な負担増を強いていることです。
年収650万~770万円の層では、負担限度額は最終的(2027年8月以降)に月80,100円から138,600円に、年収510万~650万円の層では、同様に月80,100円から113,400円に引き上げられます。各々、73%(+58,500円)、42%(+33,300円)の大幅な引き上げです。年収260万~370万円の層では、負担限度額は最終的に月57,600円から79,200円に、年収200万円~260万円の層では、同様に月57,600円から69,900円に引き上げられます。各々、38%(+21,600円)、21%(+12,300円)の引き上げです。中間層の復活どころか、衰退にさらに拍車かけるものです。
年収1,160万円以上の層では、ただでさえ高い負担限度額の水準(月252,600円)が引き上がることで、例えば、がん治療(胃がん、肝臓がん手術で10日間入院など)でも負担限度額による軽減が受けられなくなるケースも出てきます。
追加出費がかさむ入院代に追い打ち
2人に1人はがんにかかります。現在、民間の勤労者(男性)の平均年収は569万円です(国税庁「2023年分民間給与実態統計調査結果」)。この男性(月40万、賞与89万円と想定)が、例えば、血液がんで入院した場合(2027年8月以降)、抗がん剤治療はじめ最初の3か月間で10万の負担増(負担限度額引き上げ33,000円×3)が見込まれます。入院により収入がなくなったり、大幅に下がる上、治療費以外にも生活関連雑費(病衣、タオル、日用品、医療用ウィッグなど)や家族の見舞いなど出費はかさみます。治療の一環としつつも、入院食事代(1日約1,500円)は別途患者負担(負担限度額の対象外)です。治療の強い副作用で病院食接種が困難になり、別途、患者が食費を負担(自炊)している場合もあります。一連の治療がひと段落した後も、完全に職場・生業に復帰できる保証もありません。
負担限度額の引き上げは、治療や先行きに不安を抱える入院患者に追い打ちをかけるものです。患者が安心して入院治療に専念できるためにも、負担限度額の引き上げは中止すべきです。