第100回 医師の働き方改革開始 ~労働量減でも経営維持可能に~

勤務医コラム 第100回 医師の働き方改革開始 ~労働量減でも経営維持可能に~

 4月から医師の「働き方改革」が始まり、私の勤務している法人でも時間外労働の正確な把握が始まった。
2022年に甲南医療センターに勤務していた当時専攻医の高島晨伍さんがうつ病を発症し自殺された。先日お母さんに話を聞かせていただいたが、本人が母親に宛てた文章で当時の様子が生々しく伝わってきた。
過去には1998年に関西医科大学でも研修医が過労死をしている。それを機に医師の労働者性が認識され、2004年の医師臨床研修制度の導入につながった。
さらに「医療崩壊」が現場から発信されたため、08年以降医学部定員増が実現した。にもかかわらずいまだに「働きすぎ」の医師が生まれている。問題の根源には、提供できる医師労働と医療ニーズのアンバランスにある。人は年齢÷10の症状があると言われており、高齢者人口の増加に比例し対応が必要な症状は増加する。
日本は超高齢社会の先陣を切っているが、日本の医師数はOECD平均を下回り、13万人不足していると推定される。
さらに複数の症状に対して総合的にアプローチできる家庭医・総合診療医も諸外国では医師数全体の2~3割いるが、日本ではようやく養成が始まったところである。それでも医療が成り立つのは、自己犠牲による献身的な医師労働があってこそだ。かつては武勇伝的に語られ引き継がれていた。
医師の時間外労働は年上限で960時間がA水準と決まった際に、過労死水準であるにもかかわらず、それでは診療を縮小せざるを得ないという声が現場からは少なからず出された。
しかもこの水準を維持する前提で、「29年には医師数は均衡から過剰に転じるので、医師数を適正化する」というのが政府の方針である。
医師増員を求める署名(対象は医師・医学生)が開始され、要求項目には診療報酬の引き上げなど労働量を減らしても経営が成り立つ医療のあり方を求めている。「日暮れには職場を後にする」が当たり前となる未来の働き方を目指したい。

大島民旗

西淀病院(大阪市西淀川区)病院長を経て2022年から相川診療所院長(大阪府吹田市)、24年4月まで大阪家庭医療・総合診療センター長、西淀病院総合診療プログラム統括責任者。大阪民主医療機関連合会会長