第113回(2026.3.15) 安心して産める場所を守るために〔群馬協会・白石知己〕

2026年6月3日

第113回(2026.3.15)

安心して産める場所を守るために

 

お産が減っている。日本の出生数はこの20年で110万人から67万人へと約4割減少した。それに伴い産院も減少し、私が勤務する群馬県でも分娩取り扱い施設はこの20年でほぼ半減した。しかし現場の負担が軽くなったわけではない。初産の割合が増えて分娩時間は延び、妊娠年齢が上がり妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病などの合併症は増加し、帝王切開率も上昇している。さらに無痛分娩の拡大により、麻酔管理や急変対応を含め求められる体制はより高度化している。症例は集約し、残った施設の負担はむしろ重くなっている。

当直を担える医師も不足している。待機を含めれば2日に1回は夜間当番という勤務も珍しくない。昼夜を問わず緊急帝王切開に即応するため、少人数でぎりぎりの体制を維持しているのが実情である。分娩件数が減っても24時間体制に必要な人員は削減できず、物価高も重なって経営の厳しさは増している。このままでは分娩施設のさらなる減少は避けられない。

日本は周産期死亡率が世界でも最も低い水準にあり、安全に出産できる国と評価されている。それは地域に根差した分娩施設と医療者の不断の努力によって支えられてきた。施設の減少によりアクセスが悪化すれば、安全は静かに蝕まれていく。

こうした中で国は分娩費用の保険適応化を進め、2027年度の実施を目指している。しかし都道府県ごとの平均出産費用には20万円以上の開きがある。保険適応化は地域や施設の実情との乖離を生じかねず、経営基盤を不安定にし、分娩休止を加速させる恐れがある。

現在、出産育児一時金は50万円である。妊婦の負担軽減を図るのであれば、その増額こそが現実的かつ迅速な支援策である。妊娠・出産には休業による所得減少や育児費用など多面的な負担が伴う。一時金を100万円に引き上げても決して過大ではない。拙速な制度変更ではなく、安心して産める場所を守るための持続可能な政策を強く求めたい。

白石知己
(しらいし・ともみ)

産婦人科専門医。1984 年群馬県生まれ。2009年群馬大学卒業。22年横田マタニティーホスピタルに勤務。産科診療を中心に、不妊治療から胎児染色体検査の遺伝カウンセリング、周産期医療まで携わる。群馬協会副会長。