医療事故関連

2015年10月からスタート 全医療機関が対象

医療事故調査制度のポイント

2015年10月から医療事故調査制度がスタートする。5月8日には厚生労働省令(医療法施行規則の一部を改正する省令)が公布され、具体的運用を示した通知(医政発0508第1号)も発出された。

本制度では、病院・診療所(歯科を含む)の管理者は、「医療事故」が発生した場合には、当該医療機関で事故調査を実施した上、その結果を第三者機関である「医療事故調査・支援センター」に報告し、遺族に説明することが義務づけられる。

対象となる医療機関は、医療法でいう「病院、診療所又は助産所」で、診療科や規模の大小を問わない。日常診療を不安なく行い、地域医療に対する責任を十分に果たせるよう、制度の概要をつかんでおくことは有益だ。
医療事故発生から調査終了までの時系列に沿って、要点を概説した。省令や通知、関連資料は以下からダウンロードされたい。

ステップ1.「医療事故」の判断は管理者に

医療事故調査制度は、医療事故が発生した場合に、当該医療機関における事故調査を通じて原因を明らかにし、医療安全、再発防止を図ることが目的だ。

医療機関で発生した死亡事故が調査の対象となる「医療事故」であるかどうか―本制度では、その判断は管理者に委ねられている。

ポイントは「医療に起因」「管理者が予期しなかった」

「医療事故」の定義は医療法で与えられているが、ポイントは、「医療に起因(起因すると疑われる場合を含む)する、管理者が予期しなかった死亡・死産」であること。「医療に起因する」とはいかなる場合か、「管理者が予期しなかった」といえるのはどのような場合かについて、省令と通知で判断基準、解釈基準が示されている。

判断に迷ったら相談

管理者が「医療事故」に該当するかどうかを判断する際は、当該事故に関わった医療従事者等から十分に事情を聴取した上で、組織として判断する。その際、医療事故調査・支援センター(以下「センター」)、医療事故等調査支援団体などに相談し、支援を受けることができる。

ステップ2.各医療機関で事故調査を実施

管理者が「医療事故」と判断した場合には、あらかじめ遺族に説明の上、遅滞なくセンターに報告する(図の①)。

調査の方法は省令、通知に規定

その上で管理者は、速やかに「原因を明らかにするために必要な調査」(以下「医療事故調査」)を実施しなければならない(図の②)。

調査は、▽カルテ等の診療に関する記録の確認▽医療従事者や関係者のヒアリング▽解剖や死亡時画像診断の実施▽医薬品、医療機器、設備等の確認▽血液、尿等の検査―に関する事項について、必要なものを実施する。

調査は医療事故に関わった従事者を除外せずに行う必要がある。

単独での調査が困難な場合は支援も

医療事故に対応する体制や設備のない医療機関では、単独で医療事故調査を行うことは困難である。こうした医療機関はセンターや医療事故調査等支援団体の支援を受けることができる。

ステップ3.院内事故調査の結果は、遺族に説明の上、センターに報告

院内の医療事故調査を終了したときは、管理者は、遺族に対して説明の上、遅滞なく結果をセンターに報告する(図の③)。

遺族への説明は管理者が適切な方法を判断

遺族に対しては、管理者は、センターに報告する内容を説明する。

説明の方法は
(ア)「口頭(説明内容をカルテに記載)」
(イ)「書面(報告書または説明用の資料)」
(ウ)「口頭・書名の双方」
のいずれか適切な方法による。必ずしも報告書の交付でなくともよい。

いずれの方法によるかは管理者が判断することになるが、通知では「遺族が希望する方法で説明するよう努めなければならない」とされている。

センターへの報告書は匿名で

センターへの報告は書面またはウェブ・システムで行う。報告事項・報告方法は省令、通知で定められている。報告書冒頭には「個人の責任を追及するためのものではない」旨を記載する。

従事者等の関係者は匿名とし、他の情報との照合によっても識別できないようにする必要がある。従事者や遺族から報告書の内容に意見があるときは、その旨が記載される。

なお、再発防止策については報告書の必要的記載事項とはされていない。 管理者から報告を受けたセンターは、他の個別事例と併せて事例を集積、分析し(図の④)、一般化・普遍化した結果を当該管理者に報告する。

ステップ4.管理者、遺族からの依頼で、センターが調査・検証を実施

「医療事故」が発生した医療機関の管理者と遺族は、センターに対して調査を依頼することができる(図の⑤)。

対象は、管理者が報告した「医療事故」のみ

遺族からセンターに調査を依頼できるのは、管理者が「医療事故」としてセンターに報告した事案に限られる。管理者が「医療事故」としてセンターに報告した事案以外の事案が、遺族からの調査依頼だけでセンターの調査対象となることはない。

センター調査の目的は、院内調査の検証

管理者または遺族の依頼を受けたセンターは、必要な調査を行う(図の⑥)。センターの調査は、院内事故調査の結果を前提に、その検証を行うことが中心になる。その際、センターが管理者に説明、資料提供など必要な協力を求めたときは、管理者は応じなければならない。

調査報告書は管理者と遺族に交付

センターは調査終了後、その結果を管理者と遺族に報告書を交付して、報告する(図の⑦)。遺族にも報告書が必ず交付される点で、院内調査報告書とは取り扱いが異なる。センターの調査報告書や内部資料については、事故調査の目的が個人の責任を追及するものではないことから、法的義務のない外部からの開示請求には応じないこととされている。

以上