保険証残すことが最大の「不安払拭」 岸田総理に問う

マイナンバーカードをめぐるトラブルが相次ぐ中、政府は、11月末までに総点検し、「不安払拭」を図るとしています。世論調査でも24年秋の健康保険証廃止に反対が多数を占めています。この問題で医療団体や厚労大臣はどのように姿勢を示しているのでしょうか。

新しく厚労大臣に就任した武見敬三氏は9月14日武見大臣会見マイナトラブルや保険証廃止を巡り以下のように発言しています。

武見敬三厚労大臣の見解

「マイナ保険証については、患者本人の健康・医療情報に基づくより良い医療を受けることができるなどのメリットがあります。電子処方箋の推進など、我が国の医療DXを進める上でその基盤となる仕組みです。他方で、登録データの紐付けの誤りや医療現場でのシステムの不具合など、国民の皆様にご心配をおかけしている課題については、現在、解決に向けた取組を進めているところです。来年秋の保険証廃止については、総理も繰り返し「国民の不安払拭のための措置が完了することが大前提」ということを発言されています。こうした課題を1つ1つ解決し、メリットを丁寧にお伝えすることを通じて、国民の皆様が安心してマイナ保険証をご利用いただける環境を一刻も早く実現していく努力を進めたいと思っています。」

保険証廃止-日本医師会の考えは

マイナ保険証トラブルや健康保険証廃止について医療団体はどのような考え・姿勢を示しているのでしょうか。⽇本医師会会⻑の松本吉郎⽒は、9⽉21⽇に開催された⽇本病院学会で「日本医師会の医療政策」をテーマに講演。マイナ保険証問題で以下のように語りました(m3.com報道より抜粋)。

松本吉郎日医会長

 マイナンバーカードと健康保険証の⼀体化については、「2024年秋に健康保険証を廃⽌することは法的に決まっており、ここを変えるのはもう難しい」と指摘し、保険証の使⽤を延⻑できるよう発⾔してきたとして、「資格確認書の活⽤で実質的に健康保険証を、資格確認書と名前を変えて5年間使えるようにした。実質的に保険証として通⽤する」と強調。紐付けのミスなどトラブルが起きていることについては、「国⺠の不安払拭をすることが最⼤の前提。国がしっかりと進めているし、それに対して医療現場で協⼒していく」と話した。

「申請不要」は移行期だけ

岸田首相は8月4日の記者会見で「マイナ保険証を保有していない人に申請なしで資格確認書を交付する」と発言し、資格確認書の申請主義がなくなっと誤解した方も多くいます。実際はと言うと、岸田首相が会見で述べた「申請不要の措置」はあくまで保険証廃止による混乱を防ぐための「移行期」だけの対応です。移行期が終了してもその後も有効期限満了後も申請不要が続けられるかは保険者の裁量(職権交付)となります。立憲国対ヒアリングで、厚労省は、あくまで現行法制(申請主義、職権交付)の枠内での対応となり、保険者が必要と認めた場合のみの対応と明確に文書回答しています。

さらに資格確認書の有効期限を最大1年から最大5年に期間延長したということも誤解を招いています。市町村国保や後期高齢者医療保険制度は、有効期限が1年ないし2年です。国保や後期高齢の被保険者向けに今後、発行される資格確認書の有効期限が5年まで延長されたわけではありません。あくまで現行の有効期限を維持(国保、後期高齢は1年ないし2年)した上で申請により資格確認書が発行されます。例えば、協会けんぽや健保組合など被用者保険は有効期限はありませんでしたが、資格確認書になると5年の有効期限が設けられることになり、その都度、保険者への申請が必要です。被用者保険の所属する会社員はは確実に今より不便になります。

「保険証残す」ことが最大の不安払拭

岸田首相は、「不安払拭」を強調していますが、そうであれば、国民の誤解を招く記者会見での説明だけではなく、法的根拠をしっかり示した説明を尽くすべきです。すべての国民は、公的医療保険制度を利用する権利を有しています。医療保険制度を円滑・スムーズに運営するためには、健康保険証を発行・交付は欠かせません。いつでもどこでも安心して医療が受けられる状態を作るのは国の責任です。何も問題なく機能している健康保険証を廃止して、患者・国民、保険者に新たな負担を課してまで資格確認書を発行することは、政府として責任放棄に等しい対応です。6月2日の改正法案の瑕疵を潔く認めて、政府・与党の責任で健康保険証を残す法改正に踏み切るべきです。

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