10月6日に開催されたマイナンバー情報総点検本部(第3回)では、総点検のスケジュールについて以下の方針が示されました。
①各々の機関の事情に配慮しながら、原則11月末までに、個別データの点検(マイナンバー+基本4情報データの抽出⇒照合⇒不一致データについて登録されたマイナンバーが本人のものか確認)を実施する。
②9月末、10月末、11月末に進捗状況を取りまとめ、翌月に総点検本部を開催し公表する。
③12月の総点検本部では、 事務ごとの個別データの点検数・誤紐付けの数・継続確認の数を報告する。
11月末までに総点検は達成できない
総点検本部資料では、「健康保険証」の個別データの点検について、
①保険者による総点検に加え
②医療情報という特性も踏まえ、入念的に登録済みデータ全体について、J-LIS照会による確認を実施する。
③9月末からJ-LIS照会・突合を開始▽11月までにJ-LIS照会・突合を完了させる予定。
④その後、優先度に応じて段階的に、保険者・事業主で確認を行った上で、必要に応じ、本人確認を行っていく。
厚労省は9月7日の医療保険部会において、医療保険者向け中間サーバーに存在する1億6000万件の被保険者の5情報と支払基金がJ-LIS照会で抽出した住民記録の5情報(漢字氏名、カナ氏名、性別、生年月日、住所)を突合・点検していく方針を示しています。
保団連は、1億6000万件の突合・点検について、膨大な作業量であり、突合による不一致事例が多数発生することが懸念されており、到底スケジュール通りに進行しないことを指摘してきました。
総点検スケジュールについて、保団連は、全体の総点検スケジュールとの関係ですべての被保険者情報の総点検は11月末段階でどの工程まで行うつもりなのか質問しました。それに対して、厚労省保険局の担当官は、支払基金によるチェックまでを11月末までに行い、不一致となった事例の保険者・事業者による確認作業はその後の作業になると説明しました。政府が11月末までに総点検を完了するとした方針・目標は既に破綻していることになります。岸田総理が宣言した国民の不安払拭もマイナンバー紐づけの総点検も予定通りの期限で完了しないことは明らかです。24年秋の健康保険証廃止は直ちに撤回すべきです。
「漢字氏名」の点検は困難に
総点検本部は、マイナンバー総点検は次のような実務手順で進めるとしています。
①業務システムから 抽出した対象者の 「マイナンバー +基本4情報」
②住基ネットから 抽出した対象者の 「マイナンバー +基本4情報」
③上記①と②を点検支援ツールで照合する
デジタル庁は、自治体向けの点検支援ツールを提供し業務支援するとしています。デジタル庁は点検支援ツールで突合するデータ間の相違について▽例えば、氏名のデータでは半角・全角スペースなどの違い▽住所のデータでは丁目、番地、地割、号の表記の違いなどは「データ処理によって整え、正確な照合が可能な状態にしている」としました。
点検方法
①業務システム等の抽出データと 住基ネットの抽出データをツール上で照合する
②その結果として、「A 確認不要(完全一致)」、「B 要確認 (入力ミス等による不一致の可能性があるもの)」、「C 優先確認(別人への紐付けの可能性が高いもの)」 をデータごとに表示する。
保団連は、厚労省(支払基金)が実施する1億6000万件の被保険者情報の「突合」における5情報の点検において、住民記録と医療保険の情報の差が著しいので点検支援ツールを用いた場合「不一致」となる事例が散見するのではないかと指摘しました。
保団連の指摘事項
- 自治体による突合・点検は市町村が保有する住民記録とJ-LISが保有する住民記録はほぼ同じなので突合は支援ツール等で照合しても不一致事例は少ないと思われる。
- 一方で、医療保険と住民記録(J-LIS)のデータ照合はかなり難易度が高い。なぜなら、住民記録における漢字氏名は、外字・旧字・異体字を多く含んでおり、それが医療保険者向け中間サーバーに取り込む際に、●になることから●あり漢字氏名と●なし漢字氏名による突合となるため、不一致が多発することが想定されるから。
- 住所の登録がない被保険者がある一方で、住民記録側の住所データにマンション名等のデータがない自治体もあるため不揃いが著しく不一致事例が多発する。
参考:マイナンバー登録済みデータ(1億6000万件)の謎 住民記録と医療保険はこんなに違う!
デジタル庁の説明-「外字等は●化して突合する」
保団連は、外字・旧字・異体字を含む住民記録のデータとこれらの文字が●になっている中間サーバーのデータとをどのように突合するのかを問いました。デジタル庁担当官は、外字系はすべて●化した上で●を含む漢字氏名で照合すると説明しました。
漢字氏名突合スキームを検証
デジタル庁の点検支援ツールによる●を含む漢字氏名の突合は以下のようなスキームだと推察されます。
①住民記録上の漢字氏名は外字、旧字、異体字がある。
②医療保険の漢字氏名は外字、旧字、異体字は中間サーバー上で●を含む漢字氏名になっている
③点検支援ツール(システム)による照合時にはそれらの文字を●化し、データを整えて突合時にエラーが生じないようにする。
④住民記録「●を含む漢字氏名」と医療保険「●を含む漢字氏名」を照合し、「確認完了」とみなす
【検証】
ケース1 医療保険は「斉藤」で登録、住民記録は「齋藤」で登録 ⇒ 点検ツール上では「斉藤」と「●藤」で照合エラーとなる。※実際には同一人物の場合もあるし、別人の場合もある
ケース2 医療保険は「齋藤」で登録、住民記録は「齋藤」で登録 ⇒ 点検ツールでは「●藤」と「●藤」で「照合完了」となる。※実際には同一人物の場合もあるし、別人の場合もある
考察:ケース1、ケース2のいずれも実際には同一人物の場合もあるし、別人の場合もあるため、マイナンバーの紐づけ誤りを見逃してしまう
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●含む漢字氏名の発生要因と頻度 -医療現場で大量に目撃されている
- 医療機関でオンライン資格確認した際に漢字氏名が●になるケースが散見されており、本当に患者本人の情報なのか常に疑わないといけない状況になっています。
- ●が表示される割合は医療機関の患者数の2割におよぶという報告もあります。
- 市町村国保に所属する被保険者で外字・旧字・異体字がある方は中間サーバーに取り込む段階で●化するため、市町村国保や後期高齢者医療保険制度の被保険者が利用する医療機関において●表示の割合が高くなります。
- 保団連のマイナトラブル調査で「●●●子」というのもありました、デジタル庁の支援ツールを利用して、外字・旧字・異体字を●化した上でデータ照合を行う場合は、5情報による点検突合のうち、漢字氏名は突合できないことになります。
- 漢字氏名の●化により点検支援ツール上で「一致」とされた場合でも別人に紐づけられたケースを見逃す可能性があります。
- さらに漢字氏名を除きカナ氏名等で突合した場合で他人と取り違えるリスクは高くなります。
点検ツールのロジックを情報公開すべき
デジタル庁が開発した点検支援ツールを活用する場合でも、どのようなロジックでシステムを組んだかなど詳細な情報開示が必要です。医療情報という特性から1億6000万件の総点検は時間をかけてでも慎重かつ確実な対応で点検していくことが必要です。
<補足>
「住民記録」の●問題
茨城の「茨」が外字のためJ-LIS照会の住所検索で茨城を検索するとエラーになります。保険者がJ-LIS照会で茨城県の被保険者を検索すると、茨城県の検索だけではエラーとなります。そこで茨城県以下の住所例えば、水戸市で住所検索すると「●城」と表記されます。この場合、「宮城」と「茨城」の判別がつきません。千葉県松戸市の「松」、埼玉県八潮市の「八」も●になります。
茨城の「茨」が外字の場合、黒丸で表示される
茨城県内の医療機関でも茨城の「茨」が●で表示されるケースが確認されています。茨城町も存在するため●城町になるようです。