目視・本人確認によるマイナ保険証利用は法令違反だったの!?

暗証番号なしマイナカードの運用開始は12月前半に遅延

 総務省が11月27日から開始しようとしていた暗証番号なしマイナカード「顔認証マイナカード」が運用開始時期を12月前半以降に延期することになりました。11月20日付で総務省自治行政局住民制度課マイナンバー制度支援室が各市町村宛てに事務通知を発出しました。

総務省自治行政局マイナンバー制度支援室発出 11月20日事務連絡「顔認証マイナンバーカードの導入開始日等について」

保団連は、暗証番号を人為的にロックし、マイナ保険証の機能以外は使用できないようにした「顔認証マイナカード」の導入で自治体窓口や医療機関で混乱が生じると警鐘を鳴らしてきました。

11月11日掲載 暗証番号なしの「顔認証マイナカード」で窓口混乱!?

 

暗証番号「ロック」で使えなくなる問題にどう対処!?

マイナカードを持っていても、マイナ保険証の利用登録をしていない人が約2000万人います。この人たちが暗証番号をロックする手続きを行った場合、医療機関の受診時にマイナカードを持参しても、マイナ保険証としては利用できない恐れがあります。マイナカードの券面にはマイナ保険証利用登録の有無は記載されないため、見た目では分かりません。

マイナ保険証の利用登録は、通常はセブン銀行ATMやマイナポータルで手続きできますが、暗証番号をロックした場合、この方法は使えません。

11月16日の参議院厚生労働委員会にて芳賀道也参議院議員がこの問題で総務省、厚労省を追及しました。厚労省の伊原和人保険局長は、「医療機関・薬局で顔認証付きカードリーダーを利用して顔認証によるマイナ保険証の利用登録が可能」と答弁しました。さらに、芳賀議員は、顔認証付きカードリーダーのトラブルが相次ぎ、「顔認証」そのものが使えない方も多いと保団連調査を示し追及しました。これに対して、伊原局長は、「顔認証が困難な場合を想定して目視で利用登録ができるようにカードリーダーを改修する予定」と答弁しました。改修ができていない中で顔認証マイナカードを導入は医療機関窓口で新たな無保険扱い者を生み出す可能性があります。医療機関に何の周知もされていないため少なくとも患者と医療機関のトラブルは避けられません。

参議院厚生労働委員会 11月16日審議録(未定稿・抜粋)芳賀道也議員質問と総務省、厚労省の回答

 

マニュアル記載が突然削除 何が起きたのか?

こうした中、厚労省は11月14日付でオンライン資格確認運用マニュアルをまたも突然改定しました。医療機関等には改定箇所や内容の趣旨について説明はありません。これまでも6月2日に突然マニュアルが改定され、マイナ保険証が医療機関窓口で不具合があった場合、一旦10割を徴収するとしていた規定が変わりましたが、同じことを繰り返しています。

マニュアル改定を巡る経緯は以下の通りです。

〇10月31日付で総務省が都道府県、市町村に事務連絡「顔認証マイナンバーカードの導入について」を発出。

〇保団連が11月11日に顔認証マイナカードの問題点を指摘

〇この段階で、オンライン資格確認運用マニュアルでは、医療機関での「目視確認」によるマイナ保険証の利用者登録はできないと記載
※記事掲載にあたり、厚労省保険局医療介護連携政策課に当該取扱いを確認しています

〇ところが、オンライン資格確認運用マニュアルが11月14日付でコソっと改定。
11月13日までは下段に初回利用登録(p24)の記載で「目視確認」はできないと記載されていたが、11月14日に改定されたマニュアルではその部分がそっくり削除された。

「目視」によるマイナ保険証利用は法令違反だった!?

現在、医療機関や薬局でマイナ保険証を利用する際、顔認証や暗証番号が使えない場合は厚労省のマニュアルに従って目視で本人確認しています。しかし、これが法令違反であることが分かりました。

また法令では、本人であることを確認することが可能な者は「特定利用者証明検証者」として主務大臣の認可を受けることが必要とされています。利用者検証はなりすまし防止措置として法令上必要な事項です。

マイナ保険証によるオンライン資格確認については、社会保険診療報酬支払基金が「特定利用者証明検証者」として認可を受けており、「顔認証」、「暗証番号」など電磁的方法に加えて利用者本人とマイナカードの顔写真の「目視確認」のいずれかの方法で本人確認(利用者検証)を行うことが可能とされています。しかし、医療機関・薬局は認可を受けていません。

総務省は省令を改正し「顔認証マイナカード」を導入しようとしていた関係で、パブリックコメントを募集(10月13日~11月12日)していました。

電子署名等に係る地方公共団体情報システム機構の認証業務に関する法律施行規則及び行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律に規定する個人番号、個人番号カード、特定個人情報の提供等に関する命令の一部を改正する命令

改正前改正後の比較表

 

この中に、省令改正の説明で非常に重要な箇所があります。これまでの法令取り扱いを記した内容として総務省は「個人番号カード及び個人番号カードの利用者証明用電子証明書は、市町村での発行時に4桁の暗証番号を設定するとともに、利用者証明用電子証明書を用いる際には、原則として暗証番号の入力により本人確認を行っているが、主務大臣の認可を受けた特定利用者証明検証者については、当該本人確認を顔認証又は目視により行うことが認められているところ。」と記載しています。

根拠条文
○ 電子署名等に係る地方公共団体情報システム機構の認証業務に関する法律(平成 14年法律第 153 号)第3条第3項並びに第 22 条第3項及び第4項
○ 行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(平成 25年法律第 27 号)第 17 条第8項

 

現行法令上の総務省解釈によると、マイナ保険証を医療機関窓口で利用する際には「顔認証」、「暗証番号」、「目視」のいずれかにより本人確認が必要ですが、それが可能となる特定利用者証明検証者「社会保険診療報酬支払基金」のみとなります。社会保険診療報酬支払基金は、顔認証付きカードリーダーの顔認証モード、暗証番号モードを経由して電磁的に利用者検証をしていることになりますが、目視による本人確認(利用者検証)の場合は、医療機関職員がマイナカード掲載の顔写真と利用者本人を目視することになります。

各医療機関は厚労省が作成したマニュアルに沿って対応すると、法令違反のマイナ保険証本人確認(利用者証明検証)に関与させらされていることになります。

この点について、総務省自治行政局マイナンバー制度支援室に確認したところ、「公的個人認証法上、利用者証明用電子証明書の利用時に顔認証又は目視により本人確認を行うためには主務大臣の認可が必要。現在、この認可を受けている者はオンライン資格確認を実施している社会保険診療報酬支払基金のみ」と回答しました。これは顔認証マイナカードを導入するために総務省が作成した資料記載された内容と同じです。

つまり、現時点では医療機関は利用者検証者の資格がないため「目視」確認によるマイナ保険証の利用はできません。厚労省が示したオンライン資格確認マニュアルの「目視モード」そのものが法令違反ということになります。厚労省にはこれまでの取り扱いも含めて法令解釈が十分だったのか検証と対応が求められます。