マイナ保険証・オンライン資格確認システムのメリット論を検証する
メリット論①「マイナ保険証で患者の待ち時間が減る」「医療従事者の負担が軽減される」
・病院などで待ち時間が長くなる理由は、受付業務の時間ではなく、(医師不足等に比して患者数が多いことによる)診療時間の問題です。低医療費政策や医師・医療従事者の不足によるものです。
・マイナ保険証が便利と思える瞬間はあくまで初診患者の健康保険証等の転記が不要になるときだけです。再診患者は医療機関のシステムで登録済みのためさほどメリットはありません。
・マイナトラブルの増加で医療機関外来は「診療妨害」とも言える状況にあります。有効なのに「資格無効」、「資格該当なし」と表示、氏名・住所・カナの間違い、窓口負担割合の間違いなどのトラブルで
保険組合に連絡・確認作業や患者クレーム対応に追われてます。かえって待ち時間や残業が増加しています。
7月26日記者会見 マイナトラブルは止まらない – 全国保険医団体連合会 (doc-net.or.jp)
【記者発表】医療現場は混乱 依然 7 割近くが「トラブルあり」大阪協会 – 全国保険医団体連合会 (doc-net.or.jp)
【記者発表】15%で窓口負担誤登録(神奈川協会) – 全国保険医団体連合会 (doc-net.or.jp)
メリット論②「保険請求の際の被保険者資格の間違い」「有効期限切れ等による保険請求(レセプト)の医療機関への返戻(差し戻し)が減る」
・そもそも資格喪失後の受診等による返戻はレセプト全体の0.27%(1/300枚)にすぎない。
・しかも資格喪失後の受診(うち新資格が判明)について、医療機関が電子レセプトで請求している場合、返戻せずに保険者間で処理している。返戻は診療所では月に数枚程度。
・9割を超える医療機関が電子請求電子媒体(オンライン、電子媒体)で保険請求を行っており、これらの社会保険診療報酬支払基金が令和3年9月からサービス開始したレセプト振替調整を利用できる。
・これらのサービス利用と保険証の形態(紙保険証、プレートの保険証、マイナ保険証)とは何の関係性もない。
・つまり紙保険証を廃止してマイナ保険証に一体化しないとレセプト返戻が減らない、資格過誤の対応で社会的コストがかかるとの説明は全くの誤解である。
レセプト振替・調整機能は9割超の医療機関で実施済み – 全国保険医団体連合会 (doc-net.or.jp)
メリット論③ 他院で処方した薬剤情報などが分かる。診療に活用できる
・オンライン資格確認のシステムで閲覧・ダウンロードできる情報は単なる保険請求が確定した情報(レセプト情報)です
・保険請求の情報は、保険者による審査が必要なため、最長で1月半のタイムラグが発生します。
・これらの保険請求情報(薬剤情報や診療情報)は、内容が不十分で実診療で使えない上に、オンタイム(患者さんが居るその場で)で見られません
・タイムラグを解消する触れ込みの「電子処方箋」の閲覧サービスは医師等の事務負担が大きい上、対象は院外処方箋(院内処方は閲覧不可)に留まります。
・しかも電子処方箋は運用半年で導入はわずか2%に過ぎません。煩雑でコストが高いため医療現場から全然受け入れられていません。
電子処方箋、導入わずか2% 運用半年、実績伸び悩む―厚労省「目標達成、厳しい」時事通信7月16日
・これまでも医療現場では、必要に応じて、服薬情報、健診結果や他院の受診状況などを適宜確認しています。
・普及率が7割(70歳以上は約85%)と定着した「お薬手帳」(電子版あり)の方が実際的なところも多く、必要なら、健診結果はコピーもらう(医院でコピーする)などですみます。
懸念点① 薬剤・診療情報利活用の患者の閲覧のあり方―形式的同意で雑な対応
・顔認証付きカードリーダーのボタン操作一つで、受診先に他院の医療情報(当面、特定健診は過去5年分、レセプト情報 は同3年分)を開示する運用は、患者の「同意」の実効性が担保できているのか。
・内密に留めたい情報(薬剤からも類推可)を誤って開示することにならないか。例えば、精神疾患、各種感染症、中絶・流産など
・他医療機関での診療・薬剤情報が受付段階のタッチパネル同意ですべて開示してよいのか?「同意したかどうか」が受診先にわかることは、信頼関係に微妙な楔を打ち込みかねない。
・医療情報閲覧は、(歯科)医師以外の有資格者(医療機関が許可した者)も可能だが、顔認証付きカードリーダーでは患者は氏名等の情報しか見れない。
・マイナポータルで閲覧可能とされるが高齢者がスマホにマイナカードをかざして4桁の暗唱番号を打ち込みアクセスする作業は現実的に行えるのか?
懸念点② 診療の質向上に寄与するのか?
・初診患者の場合、診断・検査も未実施の段階で症状を訴えて来院している。
・まずは、かかりつけ医の診断や検査が行われて、専門医や精密検査が可能な医療機関に紹介する段階で医療情報の共有を電磁的に行うのが患者や医療機関が求める診療情報の連携・共有である。
・マイナ保険証、オンライン資格確認のシステムはそうした医療現場の実情や要望を踏まえた機能を有していない。
・開示する範囲を、処方箋、手術名・傷病名、更に電子カルテ情報(感染症有無、診断画像、検査値など)に急ピッチで広げていく予定だが、患者のヘルスリテラシーの向上こそが急務の課題ではないか。
懸念点③ 健康保険証で他人の保険証を使うなりすまし受診が横行はホント?
「顔認証」システムで本人確認するマイナンバーカードが必要との声が聞かれるが、実際のところ合理性には乏しい。
保険証の目視による資格確認に関わって、なりすまし受診の横行などは公式上報告されていない。
▽例えば、不正事案が取りざたされた在留外国人の国保適用・給付に関して、在留上の資格を偽装して国保加入していた違法事例は基本的に確認されていない。
▽在留する外国人が被保険者に占める人口割合と比べて医療費が多いとも報告されていない。
マイナカードで「不正請求が減らせる」「なりすまし防止」は本当か
医療機関では、本人確認が追加で必要と判断した場合、写真付き身分証の提示を求めることができる。(通知、2020年1月)
懸念点④ 顔認証システムは生体認証の布石では?
・顔認証(生体認証)システムは、患者のプライバシーはじめ人権の問題に直結(抵触)します。
・EUでは生体認証(顔認証等)は原則禁止し、米国も州によっては厳格に規制しています。
・日本弁護士連合会が指摘するように、顔認証システムについては「これまで顔写真による本人確認すらしなくても大きな不都合は存在しなかった上、当面写真なしの健康保険証と併用されることに照らしても、顔認証システムを利用しなければならないほどの厳格な本人確認は行政上の必要性に欠ける」。
具体的根拠も曖昧なまま、人権に直結する「顔認証」の整備を求める政策的合理性は乏しい。
※生体認証の利用は、国家による個人の統制・監視にも転用しうる。公共サービスにおける顔認証(生体認証)システムの可否については国民的な議論を深めるべき。
健康保険証を廃止しマイナ保険証に一体化する政府方針について
・政府は、国民一人当たり2万ポイントを投入し、マイナカード、マイナ保険証の普及を進めてきました。
・医療DXの大義を掲げてここまで無理・無駄なことを進めてよいのか国民的な検証が求められます。
・医療の質向上は誇大宣伝です。医療機関にも患者・国民にもメリットがほとんど感じられないデジタル化はまやかしと言わざるを得ません。
・数兆円もの国費を投入して、現時点で得られる効果はわずかです。医療現場に混乱をもたらし、患者・国民の不安に陥れる保険証廃止は撤回すべきです。