「一部保険外療養」創設で国民皆保険の根幹を揺るがす

2026年6月23日

5月29日、健康保険法等改正法案が参議院本会議で可決成立した。参議院の採決は賛成166票、反対79票。賛成は自由民主党、日本維新の会、国民民主党、参政党、日本保守党、チームみらい、反対は立憲民主党、公明党、日本共産党、れいわ新撰組、社会民主党、沖縄の風。「一部保険外療養」は必要な医療は保険診療で給付するとした国民皆保険制度の基本理念から大きく逸脱し、将来に渡り7割給付を維持するとした2002年健保法附則にも反する。

厚労省は、保険を使って医療用医薬品の処方を受ける場合と保険を使わず市販薬で対応する場合の公平性や制度の持続可能性などを理由に薬代の一部を保険除外すると説明してきた。①既に保険収載されている薬剤を市販薬利用者との公平性や制度の持続可能性などの理由で一部を保険除外②配慮対象となる患者と配慮されない患者が生じ、被保険者間で差別的待遇を図る―などから、これまでの保険外療養費制度(評価療養、選定療養、患者申出療養)とは次元が大きく異なり、公的医療費の際限のない縮小など国民皆保険の根幹を壊しかねない危険な性質を持っている。

保団連は「一部保険外療養」の廃止を目指しつつ、①当面、特別料金を徴収しない配慮対象者を可能な限り拡大していく②薬剤の対象範囲と負担割合の拡大を阻止する③薬剤以外への適用拡大の具体化を許さない取り組みを進める。

患者・国民への影響を可視化し反対世論を構築

保団連は当初の保険除外の運動から、がんや難病患者の当事者・家族とともに薬の保険除外阻止に向けた取り組みを強めてきた。

薬の保険除外による当事者への影響を可視化するアンケートを合同で実施し、現役世代を含む幅広い年代から負担増による受診抑制や社会生活への影響などを記者会見、厚労省要請、院内集会を通じて広くアピールしてきた。保団連が呼びかけた請願署名はオンライン署名も含め、約27万筆を国会に提出した。

【4月10日】8100人が回答 OTC類似薬の負担増に関する厚労省要請と記者会見 – 全国保険医団体連合会

4月10日の厚労省要請で、一部保険外療養の法規定が、薬剤だけでなく診察や処置など療養の給付全体も適用可能であることを明らかにするとともに、4月21日に衆議院厚労委員会で中村洋一政策部長が参考人として意見陳述し、一部保険外療養の創設で、対象薬剤や金額の拡大に対する歯止めがないこと、薬剤だけでなく医療行為全般の給付制限にも拡大できる法規定の問題点を指摘し、当該条文の削除を求めた。

この法案、負担増できるのはOTC類似薬だけではなかった – 全国保険医団体連合会

「際限ない保険外の拡大招く」 健保法改正案の参考人質疑で保団連役員が陳述 – 全国保険医団体連合会

参議院審議でも、「一部保険外療養」の適用対象が、薬剤に限定されるか療養の給付全体に拡大される法解釈に集中した審議が行われた。厚労省は、「法案第63条第2項第6号の規定だけを見ると、薬剤以外の療養の給付全般を対象にしている」との法解釈をいったんは示したものの、その立法事実を説明できず、最終的には、5月28日の厚労委員会審議で「薬剤のみを対象としたもの」と法解釈の修正に追い込まれた。

「一部保険外療養」の法解釈が「療養の給付全部」から「薬剤限定」に変更されました – 全国保険医団体連合会

保団連は、厚労大臣記者会見でこの問題を追及した。法成立後の6月16日の記者会見で保団連は、法律の削除を求めるとともに、将来の解釈修正があるのではと指摘し、上野厚労大臣から「将来の解釈修正は想定しない」との答弁を引き出した。

【6月16日大臣会見】「保険除外の対象は薬剤限定」 将来の解釈修正は想定しない – 全国保険医団体連合会

薬の追加負担 対象、負担割合の拡大阻止に向けて

OTC類似薬の保険除外される医療用医薬品は2027年3月から77成分1100品目の医療用医薬品を対象に、薬剤費の25%が保険除外(追加負担)となる。6月末から4回開催される有識者会議で追加負担を徴収しない配慮対象者を選定される。厚労省は、配慮対象者についてがんや難病患者、低所得者、入院患者、長期使用が必要と認められる患者を例示しており、配慮対象者の拡大を要望していく。

対象薬の拡大、負担割合拡大について、令和9年以降に対象範囲や負担割合を拡大していくことが昨年末の財務・厚労大臣の「大臣折衝事項」に明記されており、改正法附則にも同趣旨の検討規定が盛り込まれている。4月24日の委員会審議で辰巳孝太郎衆議院議員の質問に対して、上野賢一郎厚生労働大臣は、「法制上、薬剤費全額を保険外として別途負担を求めることは可能」と答弁した。5月21日、日本維新の会の猪瀬直樹議員は、処方箋医薬品を除いた医療用医薬品全て(1100成分・7000品目)を「一部保険外療養」の対象とし、薬剤費の全額自費(薬剤費:1兆2千億円)に向けて「間髪入れずに動き出すべきだ」と主張した。法解釈上は「薬剤限定」と修正しましたが、法制上は、薬剤費の「一部」ではなく、「全額も可能」とする答弁は修正されていない。

厚労相「法制上、薬剤の全額自費は可能」 – 全国保険医団体連合会

現役世代の負担軽減どころか負担とリスクが増大

政府は現役世代の保険料の軽減(上昇の抑制)や制度の持続可能性を法改正の趣旨に公的医療費削減を正当化している。77成分1100品目の薬剤費を一部保険除外とする見直しに伴う医療費削減額は年間900億円(追加負担500億円、受診抑制400億円)、保険料軽減効果は加入者1人当たりわずか年400円(月33円)にすぎない。

他方、受診したら、薬代の一部は保険が利かず追加負担となる。例えば、花粉症で受診する患者(内服1種類、点眼・点鼻を処方)の事例では月1,500円の負担増になるなど現役世代も軽減より負担増が上回る方が多いのが実態だ。厚労省は、保険を使わず市販薬を利用している患者との公平性を理由に追加負担を求めているが、自覚症状や基礎疾患のある患者が自己判断で市販薬を購入による健康影響は各協会の調査でも明らかにされている。飲み合わせ、併用禁忌薬の利用により既疾患の悪化もしくは、自己判断による漫然と市販薬を服用し続け、原因疾患の見逃しにつながるなど様々な健康リスクを患者に転嫁される。