【2024年診療報酬改定】特定疾患療養管理料「廃止」の衝撃⑦ 賃上げどころか賃金維持も困難

吉田統彦議員
武見敬三厚労大臣

3月27日の衆議院厚労委員会審議で、物価高騰下での改定率や特定疾患療養管理料「廃止」に伴う医療機関の減収問題、医療従事者の賃上げ・確保など24年診療報酬改定を巡る諸問題が論議されました。

吉田統彦議員(立憲民主党)は、特定疾患療養管理料の算定対象から3疾患(糖尿病、高血圧症、脂質異常症)が除外され実質「廃止」されたことに関して「内科系医療機関を中心に大きく減収となる」、「賃上げどころか賃金維持も困難なレベル」と武見厚労大臣を追及しました。

3月27日衆議院厚労委員会 インターネット審議中継 

 

武見厚労大臣 賃上げに無関係な医療DX加算等で「賃上げ財源確保を」

 武見大臣は、生活習慣病を中心とした管理料などの効率化・適正化を行う一方で、「賃上げに向けて本体0.88%増とした」、「上手く活用して賃上げ財源を確保して欲しい」と答弁しました。武見氏は賃上げと直接関係がない「医療DX加算の新設」まで持ち出して賃上げ財源確保を求めました。

24年度診療報酬改定率を巡る政府内の攻防では、23年12月の財務・厚労大臣合意において「診療所を中心に管理料や処方箋料等の再編等による効率化・適正化を行う」が盛り込まれました結果、診療所や中小病院が主に算定している診療報酬の改定率がマイナス0.25%されました。医療費で1200億円もの削減となります。

厚労省は、特定疾患療養管理料から3疾患が除外されたことに伴う対応として、受け皿となる生活習慣病管理料Ⅱへの移行を促しています。

しかし、保団連試算では、特定疾患療養管理料の算定患者すべてを生活習慣病管理料Ⅱに移行できたとしても平均で年223万円の減収となります。

 

吉田統彦議員 賃上げ加算と特定疾患療養管理料「廃止」による引き下げは全然見合わない

吉田議員は「物価高が続き時給を引き上げてもスタッフが確保できないとの声が出ている」と医療現場の声を紹介。さらに特定疾患療養管理料「廃止」の影響で「岸田総理は賃上げと言うが実際には賃金を維持するのも難しい水準だ。賃上げできなかった場合の責任はどうするのか」と緊急対応を求めました。

武見厚労大臣は、「医療従事者の賃上げを考えて診療報酬改定本体を0.88引き上げた。上手に活用して活用して欲しい」との答弁にとどまり、「個々の医療機関のケースで異なる」と述べ、医療機関の減収問題についてコメントは避けました。

保団連試算でも明らかなように初再診の加算や生活習慣病管理料Ⅱへの移行を前提にしても内科系医療機関は平均で月18万6000円の減収になります。

外来患者増による増収が見込めない場合、単なる減収となり、賃金維持すら困難に追い込まれます。

医療法人の25%が赤字―報酬引き下げで約1万医療機関がさらに経営困難に

 医療経済実態調査では医科診療所(医療法人)の損益差額が0円から500万未満の赤字法人が12.9%、500万円以上の赤字の法人が13.4%と赤字法人だけで医療法人の約25%を占めています。医療法人の施設数約4万のうち1万件が赤字経営を迫られています。人口減少地域で外来患者数の増加が見込めない地域ほど減収・赤字基調にあることが推察されます。今般の特定疾患療養管理料「廃止」はこうした医療機関に大打撃となります。

高齢化、人口減地域で医療機関の撤退の懸念も

地方で高齢化率が高い地域は若者世代も流出の一方となり人口減少地域となっています。人が住み続けられるためには医療機関の存在は欠かせません。そうした地域でも民間医療機関が医療提供を担っていますが、民間の場合は採算が確保できないと存続すらできません。その地域の外来患者数は、人口×高齢化率×有病率で決まりますが、人口減少地域では診療所ですら経営維持が困難になります。全国どこでも3疾患(糖尿病、高血圧症、脂質異常症)の患者を診療した場合でも同じ診療報酬単価であるため何とか経営を維持できた医療機関でも今回の特定疾患療養管理料「廃止」で大きな減収となります。
政府の医療DX、マイナ保険証推進に伴い、新規開業時にオンライン請求、オンライン資格確認義務化等のシステム投資、デジタル装備が必要となり開業コストは大幅に増加してます。経営計画を策定する際の損益分岐点がとなる売り上げ規模が上昇しています。院長の経営手腕とは別の地域の特性で医院経営が維持できるか否かが決まります。地域からの医療機関の撤退や赤字・後継者不足、医師本人の高齢化による倒産・廃業を加速化させ限界歯科集落、限界医科集落が増加することは避けられません

医療機関経営を維持することは地域医療を確保することと同義です。どの地域でも高齢者に対応して安定・持続可能な報酬が確保できるようにするため、多くの高齢患者の医療提供を行うベースとなる特定疾患療養管理料「廃止」は撤回すべきです。